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なにかあり/とくになし

安藤さんと永井さん

大きなギターをかついで
安藤明子さんがご来店。


昨日今日と
島津田四郎さんという四国のシンガー・ソングライター
東京でライヴをやっているのだ。


今回は
大阪から女性ドラマーのtoriconeさんも同行していて
お店にも一緒に来てくれた。


ドラム入りの安藤さんは
まだ見たことがない。
今日行けないことを悔やんだ。


「松永さん、
 永井宏さんのこと書いてましたよね」


不意に安藤さんから質問を受けた。
そして
ぼくの答えを待つまでもなく
ひとりごとのように彼女は言葉をつづけた。


「今考えれば
 あれは永井さんだったと思うんです。
 わたし、永井さんに教わったコードで
 「オレンジ色のスカート」という曲をつくったんですよ」


記憶をたぐり寄せながら
彼女がしてくれたのは
こんな話だった。


*  *  *  *  *


3年くらい前ですかね。
京都のカフェのミズカ(Gallery mizuca)にわたしがいたときに
偶然お見えになったんですよ。
オーナーの荒井さんともお知り合いだったみたいで
「カツ丼ある?」みたいに冗談を言ってました。
ミズカはそんなお店じゃないのに(笑)。
そうです。
白髪頭で髪が肩くらいまである感じでした。
眼鏡は……かけてたかなあ。
わたしが歌うたってると紹介したら
そのひとの前で歌うことになったんです。
そしたら
「ピックで弾いたほうがいいね」とかアドバイスをくれて
そのうち
「ちょいと貸してみろ」という感じでギターを手に取って
押さえた指をずらしながら進む
それまでわたしの知らなかったコード進行を教えてくれたんです。
その進行でわたしがつくった曲が
「オレンジ色のスカート」なんですよ。
わたしがバイトしている
六曜社の地下店の方にもよく見えてたみたいで、
わたしはよく覚えてないんですけど
「そう言えば見たことあるような気がするなあ」って
わたしの顔を見て言ってました。
でもね、
わたしはだいたい
ひとに楽器を教わるのはいやなたちだったのに
そのときに
そのひとに教わるのはいやじゃなかったんです。
そのときは
鎌倉でカフェとかやられてるみなさんとご一緒で
たぶんトークショーみたいなイベントが京都であったんだと思います。


わたしはあれが永井宏さんだったともよく認識してなくて。
でも思い出してみたら、
やっぱりあれは永井さんだったんです。
あとにも先にも
永井さんにお会いしたのはそれっきりなんです。


*  *  *  *  *


話を聞いているだけで
すぐそこに永井さんがいたような気になる。
それは
安藤さんが語りの名手という意味ではなく
起こったことをそのままの気持ちで伝えられるひとだという意味でもある。


起こったことを起こったままに言うのは
ただの写実だが
彼女の気持ちというフィルターを通ることで
話は初めて他人の感情のドアを開ける。


そのまんま
安藤さんの歌のような話だった。


おかげさまで
今晩のライヴはソールドアウトで、
また7月ごろに東京に来たいと彼女は言った。


ぼくは
今晩は失礼をして
青山CAYで行われるオーヴァー・ザ・ラインのライヴに向かった。


その素晴らしいライヴについては
またあらためて。