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なにかあり/とくになし

音叉のようなふたり

オーヴァー・ザ・ライン
ふたりだけで日本にやって来た。


オハイオ州シンシナティを拠点に
20年に及ぶ活動履歴と
10枚を超える充実したアルバムをリリースしてきながら
日本ではまったく無名だった夫婦デュオのこと。


なにかの慣用句のようなグループ名は
シンシナティにある
かつてはドイツ人居留区で
古い建物がある妖しげな歓楽街の名前だという。


歌舞伎町、みたいなものか。


縁あって彼らのことを知り、
さらに偶然にも2年前の冬に
ロサンゼルスでライヴを見て
とりこになった。


そのときは
バンドメンバーを3人ほど従えていたが
今回の来日は
夫婦ふたりだけだった。


それでも
多くの海外ミュージシャンが
訪日をためらうなかで
しりごみしないで
彼らは自分たちの音楽をやりに来た。


ふたりきりのステージは
CDやロスでのライヴで見た
圧倒的な集中力による世界観の呈示とはまた違った
親密さを増したものになっていて
これはこれでいいなと思った。


近年は
バンドメンバーを増やして
ライヴでもきっちりとした音の構築を進めているそうだから
ふたりだけの素の姿を見ることができるのは
それはそれでスペシャルなことに違いない。


彼ら夫婦が
いつも自宅で曲作りをしたり
軽くメロディを重ね合わせたりしているとき、
それはきっとこんな感じなんだろう。


もちろん
ひとに見せるパフォーマンスなのだということは
きちんと意識されていて。


ふたりぼっちのふたりが奏でた音楽は
ふたりの間で響き合って
客席にエコーした。


歌とピアノ。
歌とギター。
ギターとギター。
歌と歌。


音叉のようなふたりだと思った。