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なにかあり/とくになし

トミー・ジェイムスの“ボスしけてるぜ!”

ここ最近、
仕事の行き帰りや風呂のなかでは
ずっとこの本を読んでいる。


トミー・ジェイムス「Me, The Mob, And The Music」。


ハンキー・パンキー」や「モニー・モニー」
ルビナーズやティファニーがカヴァー・ヒットさせた
「アイ・シンク・ウィアー・アローン・ナウ(ふたりの世界)」、
「クリムゾン&クローヴァー」、
「クリスタル・ブルー・パスエージョン」など
60年代後半にいくつものトップ10ヒットを出した
あのトミー・ジェイムス&ザ・ションデルスの
あのトミー・ジェイムスの自伝だ。


どちらかと言えば
ロック的なリスペクトを受けているとは言えず、
むしろいかにも頭のわるそうなイメージで語られる彼の自伝は
去年アメリカで発売されていて、
すごくおもしろいし
話し言葉だから日本人のおまえでも読めるよと
原書を読んだ知人から推薦を受けていた。


読み進めてわかった。
手から汗がじとっと出るほどおもしろい。


そのおもしろさは
彼のミュージシャンとしての出世話の波瀾万丈はもとより、
彼が所属した、悪名高きレコード会社ルーレット、
その独裁的なボスであるモーリス・レヴィが
一大マフィア(“The Mob”とはマフィアを意味する隠語)であり、
その内情を
渦中にいた者がきちんと書いたということにもある。


アメリカのポップ・ミュージック史上に
よくもわるくも名を残すこの大ボスに
トミー・ジェイムスはもっとも搾取され、
もっとも楯突き、
そして
もっとも近くでその人間的な素顔を見た者だった。


単に悪らつ非道なその仕事ぶりを書く暴露本ではなく
ひたすらヒット曲を求めるという現場で
善と悪と運と計算が交錯する
ニューヨークの音楽シーンが描かれている。


もっと言えば
トミー・ジェイムスの視線は
一般人であるぼくたちにずっと近くて、
いろんなことに普通に驚いたり、
普通にとまどったり、
そして
普通に狂ったり
普通に落ち込んだりしていくという過程が
とてもリアルに感じられるのだ。


音楽業界と裏社会との関連を
露悪的でなく
当時の若者らしい率直な感じ方で描き出したという点で
本書はすぐれた一冊だと思う。


音楽的な天才の内面を
ああだこうだと想像して
ロックやポップスにあくまでファンタジーを求めるタイプの本よりも
ずっとずっとおもしろい。


日本での知名度というか
トミー・ジェイムスの“さげすまれ度”からすれば
とても翻訳書が出版されるとは思えない。


でも、
もしぼくが本書を訳して出版するとしたら
タイトルはこうだ。


「トミー・ジェイムスの
 “ボスしけてるぜ!”」