mrbq

なにかあり/とくになし

さぼり日

ひさしぶりに
シメキリが近くにいない休日だったので
たまにはめいっぱいさぼろうぜと
ツマと出かけた。


その目的のひとつが
ここでも告知した
永井宏さんの写真展。


外苑前を降りて
すこし寄り道をしながら
ギャラリーに歩き着いた。


こじんまりとした室内には
女性の先客がひとり。


ぼくたちが入って
彼女が何冊かの永井さんの著作を買って出ていったあと
もうひとり
若い男性が入って来た。


BGMには
だれの歌なのかわからないが
ゆったりとしたハワイアン(音の感じからして録音は最近だろう)が
ずっと流れていた。


若者が
ギャラリーの管理人と思しき男性に
「これ、永井さんの声ですか?」と訊ねた。


管理人さんは「違うよ」と答え、
すこし間を置いて
「聴きたいの?」と言ってPCを立ち上げた。


そして
問わず語りのように続けた。


「聴き飽きたっていうかさ、
 ぼくたちはもうずっと昔から彼の歌聴いてきたから。
 なにしろ高校のクラスメートだったときからだもの」


やがて
永井さんのギターと声が聞こえてきた。


とつとつと
よろけそうになりながらもまっすぐな声で
ボブ・ディランの「くよくよするなよ」を
歌っている。


どういうわけか
歌詞の一部が関西弁になっている。
そういう遊び心にイヤミのないひとなのだ。


プロフェッショナルとアマチュアのあいだを
好きなように行き来している。


展示されている写真は
92年にフランスで撮られたものだそうだが、
写真にも
精魂こめて一瞬を切り取るような向かい方とはちがう
無理のない技術で
やさしく気を使い
遊ぶこともおそれない
永井さんらしさが表れていた。


永井さんと高校の同級生だという年輩のご主人と
若者の話はまだまだ続きそうだったので
記帳と
新刊を一冊購入して
ギャラリーを出た。


そのまま
青山から渋谷まで
ツマの買物につきあったり
とんかつを食べたり
平田暁夫さんの帽子展を見たり
道草しながら歩く。


夜9時からは
大野松雄さんを撮ったドキュメンタリー映画
アトムの足音が聞こえる」をようやく見た。


そしたら
劇中で大野さんも
プロフェッショナルの条件として
「いつでもアマチュアに戻れること」
「どれだけ手を抜いてもそれを悟られないこと」を
何度も挙げていた。


永井さんの展示を見てきたからだろう。
「いつでもアマチュアに戻れること」が
心のなかで
しゅわっと泡を立てた。