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なにかあり/とくになし

吉本浩二さんに、礼

漫画好きのあいだでは
もうとっくに話題になっているんだろうけど、
いてもたってもいられない気持ちを書きたい。


宮崎克原作・吉本浩二作画
ブラック・ジャック創作秘話」(少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)のこと。


その素晴らしさについては
かねてからカクバリズムのM哉氏(下北まんが道)から聞いてはいたけど、
まとめて読むと
物語の肉厚ぶりに
あらためて圧倒された。


噛めば噛むほど
手塚治虫
彼に尽くしたひとびとの思いが
肉汁になってびちゃびちゃとはみだしてくる。


その質感は
吉本さんの
いつも思いあまってしまう筆圧と
率直な画風がもたらしているものでもあるのだが、
何よりも素晴らしいと言えるのは、
この“秘話”が
今明かされる新事実とかいうスキャンダラスな目線のものではなく、
手塚を愛する者たちによって保たれていた
なつかしい真実であるということだろう。


ひとりの天才に
魅せられ
翻弄され
人生を変えられたひとたちが味わった希望や絶望、
捨てられずにいるぶかっこうな思い出を
かたちに残すこと。


経緯はわからないが、
その点において
吉本浩二の抜擢は
ベスト・キャスティングだったと思う。


何故なら彼は
雑然と汚れた手塚プロの社内を
当然のようにそのまま描くし、
編集者やスタッフの徹夜明けでくたびれきった顔を描くし、
汗をかき、
もがき苦しみ、
不機嫌な顔をする
手塚治虫
容赦なく描く。


ベレー帽を脱いで
タオルほっかむりでランニングシャツ
お腹もぽっこり出ていて
段ボールの上で疲れ果てて眠る手塚治虫
なまなましくて
生きものめいていて
うつくしい。


それぞれのエピソードには
今までもいろいろなかたちでメディアに出ているものも多い気がするけれど、
見せ方として
ここまでぐっとくるものは
そうはなかった。


手塚プロの柱に
悔しさあまってパンチで穴をあけてしまった編集者の拳からは
当然のように血が流れている。


手塚治虫のアニメ班で
中心的な存在だった故・坂口尚
手塚にキレて
窓から電話機を外に放り出すエピソードなんて、
ロックスターがホテルからテレビを外に投げ飛ばした武勇伝なんかより
よっぽどリアルに
胸に響くじゃないか。


それにしても
手塚治虫


おそるべきは
その仕事量はもとより
シメキリとの
決死の闘いかた。


これは
読者に絶対わるい影響あるよ、ねえ(ぼくも含めて……)。


ところで
これだけ褒めておいてなんですが(急に敬語で)、
ぼくは吉本浩二さんの絵は
以前は結構苦手で、
名作との誉れの高い「昭和の中坊」も
スルーしていたのです。


日本をゆっくり走ってみたよ」1巻が初・吉本浩二
そして
二冊目がこの「ブラック・ジャック創作秘話」。


自分の目がフシ穴だったと深く反省します。
現代最強(狂)の漫画原作者大西祥平さんと組んだ
「勝ち組フリーター列伝」も読んでみたいと思います。


吉本さん、
あらためまして
よろしくお願いします。礼。






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