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なにかあり/とくになし

踊る理由

以前に一度
ぼくは片想いを見損ねている。


ceroの「WORLD RECORD」レコ発ライヴのあの夜
彼らはゲストで一番手に登場したのだが、
ぼくが会場に着いたのが遅かった。


それでも
その日みんなが
ceroへの祝福と讃辞の合間にこっそりと
「いやー、片想いが……」
「片想いがねえ……」と
まるで青春まっただ中の中高生みたいな会話を交わしていた
不思議なアフターアワーズ感のことは覚えていた。


そして7月24日の晩、
ぼくがジオラマシーンを見損ねた晩、
今日はその代わりに片想いが
ぼくの前に現れる。


これもまた
奇妙な偶然と言えば偶然か。


所沢の
なんとなく雑然とした居心地のライヴハウス
ごちゃっと集った8人の男女。


ギター、ベース、ピアノ、ドラムス、
サックス、ホルン、ピアニカ、三線、その他もろもろ。
雑然とした物置のようになった舞台で
彼らはコントまがいのMCで音楽をはじめた。


ceroのサポートをしているツワモノ、
MCシラフがメンバーであるということ以外は、
あえて何も知らずに今日まで来た。


かなり普段着なメンバーからは
どこかにある
出入り自由で
なにを活動しているのかよくわからない
“部活”の延長のような気配もする。


それって
日常と非日常の境目が
とてもあいまいだということだ。


実際に
片想いの音楽には
その境目が、たぶん、まるでない。


音楽的にも
言語的にも
このゴチャマゼ感が
このドタバタ感が
そのままグルーヴになってしまっている。


あるいは
奇跡的なほど上出来の音楽闇鍋。


あやうくバラバラになりそうなのに
奇跡の綱渡りを続けたまま
最高のエンターテインメントになっていた。


「踊る理由」という曲を彼らがやったとき
こんなふざけたように見える連中に
こんなに心から素晴らしい曲があって
こんな場面でもしかして泣かされてしまうのかと
たまらない気持ちになった。


ぼくが泣いている理由なんて
わからないだろう。(「踊る理由」より)


向井秀徳綾小路きみまろ
足して割ったような割らないような中肉中背という
得難い風格のヴォーカリスト、片岡シン。
あなたに泣かされるのは
正直、不覚です。


ぼくたちが
勝手に未来を先読みして
あれもいけない
これもいけないと
ため息ばかりついているうちにも、
片想いはぐちゃぐちゃに混乱を楽しんでいる。


片想いの
収拾のつかないヴァラエティは
流れ弾のように
勝手にぼくの心に突き刺さった。


片想いに片想いするのも
おおいに買いかぶるのも
ぼくの勝手だ。
また見たい。


では
踊る理由」をどうぞ。