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なにかあり/とくになし

ぼくらは海へ

那須正幹の少年小説「ぼくらは海へ」を
読んだことがなかったのは何故だろう。


奥付を見ると
本書のオリジナルである
偕成社版が発売されたのは
1980年の2月。


1980年の4月に
小学6年生になったぼくは
この物語の主役である
小学6年生の男の子たちと
完璧に符号した時代に
一年を送ったことになる。


ぼくの小学校の図書館に
はたしてこの「ぼくらは海へ」は
収蔵されていたのだろうか。


当時出会わなかったことが
くやしくなる一冊だが
当時出会ったいたとして
はたしてこの本を
素直に飲み込めたかどうかはわからない。


優等生にクロールの水泳勝負を挑まれて
なんだか説明しがたくむしゃくしゃした気分のまま
平泳ぎでゆうゆうと泳ぐことで
負けることを選択する男の子。


国語で
自分のなかの悪魔の存在に関する文章問題で
選択肢で正解を選べと迫られて
どれが本当なのかわからなくなる男の子。


いちいちが
なつかしくて
いちいちが
リアルだ。


というか
これは、ぼくだわ。


当時読んでいたら
登場人物のうちのだれかが自分に当てはまり、
当時の心理のいちいちを言い当てられているようで
きもちわるくなって
投げ出していたかもしれない。


子ども時代は
そんなにまぶしくなかったということを
思い出させてくれる。


だからこそ
ぼくたちは
まぶしいものを求めていたということも。


そして
あのとき海に行けなかったぶんだけ
今もまだ
いい歳こいて
浮世をさまようしかないのだということも。


去年の初夏に
ひそかに文庫で復刊されたこの本は
まだ第一刷。


なぜか一年遅れの今年の夏、
渋谷の文教堂書店で
平積みにされていた。


文教堂
泉昌之の「新さん」を平積みにしたり、
ときどき
味なことをする。