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なにかあり/とくになし

「スタジオ黄金狂時代」あれこれ

トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代」は
あのマイク・マイヤーズの弟(!)、ポール・マイヤーズの労著を
トッドの大ファンである奥田祐士さんが翻訳した力作。


発売前から
ウワサを聞いて気にしていたのだが
たぶん読み始めたら止まらなくなるとわかっていたので
シメキリが一段落するまで
近づかずにいた。


先週
ようやく仕事のメドがついたので
読み始め、
結局するっと引き込まれてしまった。


読み終えて思う。


トッド・サウンドの秘密がいろいろわかるのはもちろん、
興味深いのは
確かに彼はスタジオホリック(スタジオ仕事狂)ではあるけれど、
「ああでもないこうでもない」と試行錯誤を繰り返すタイプとは正反対。
つまり
型通りのマッド・サイエンティスト的なイメージとは違う。


むしろ
「こうと決めたらこれ」的な
ひらめきをもとにした
早録り早仕上げのひとだったということ。


そういう意味では
音楽制作をしているときに
生活や精神状況が作品に反映されることはあっても、
そのことが
音楽制作そのものの進行をさまたげてしまうほどの
時間的な葛藤になる場面があんまりない。


意外とサクサク話が進むのは
そのせいでもある。


まあ
そうでなくちゃ
ソロ、ユートピア、プロデュースと、
あれほどの多作なひとにはならないわけだけど。


スタジオでの仕事ぶりは
「天才だ!」と
依頼したミュージシャンたちを驚かせるのに、
最初に仕上がったミックスは
「最悪だ!」と
多くのクライアントを嘆かせるというシーンが
何回も出てくるのもおもしろかった。


イデアを音に構築していくことにかけては
おそろしく才能があるのにね。


たぶん
そこんとこが
このひとを“魔法使い”と呼びたくなるゆえん。


そして
その“魔法使い”には
“ドジな”要素も
ちゃんと備わっている。


アナログ両面(2枚組じゃなくて)で67分34秒もある
問題作「未来神」について
「こんなことをすると音が悪くなる」と言われたトッドの
返した答えが好きだ。


「ロックンロールなんだぜ。
 音質なんてどうでもいいじゃないか」


それと
これは超・些末な話。


ラント名義で行った初期のソロ2作に参加し
リズム・セクションを担当した
まだ十代のミュージシャン兄弟、
トニー&ハント・セイルズ。


彼らがのちに
ストゥージズを手伝ったりする
ちょっと畑違いのセンスの若者だということは知っていたけど、
人気コメディアン、
スーピー・セイルズの息子であるという事実は
本書ではじめて知った。


実は
スーピー・セイルズが
60年代から続けていた人気テレビショー
「スーピー・セイルズ・ショー」のテーマ曲(アル・モーティマー作曲)は
トッドの「サムシング/エニシング?」に収録された
宅録実験曲「ブレスレス」に
すこし雰囲気が近くて
好きな曲だったからだ。


セイルズ兄弟と会って
「へえ、きみたちのお父さんはスーピーなの。
 そう言えばあの番組のテーマ曲さあ……」
なんて会話をした、という話は
本書には書いてない。
ぼくの妄想。


でも、
あながち妄想でもないかもよという証拠を
こちらに。


映像は70年代のものだが
テーマは60年代半ばから使われている同じ曲だ。