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なにかあり/とくになし

わたくし、チェリー・コーラの味方です

ハイファイのすぐ近くにあるヤマザキ・デイリー・ストアは、
渋谷の街中にありながら、昔ながらの商店感覚でお菓子屋やパン、総菜を売っている。


たいてい、出勤前にここに立ち寄って、
飲み物やらフリスクやらを買って行くのだが、
ときどき魔が差したように買ってしまうものがある。


それは、チェリー・コーラだ。


さくらんぼうをいぶしたような香りのするこのコーラ飲料は、
いかにもアメリカ産という感じの大ざっぱさで、実に“うまずい”。


あ、“うまずい”とは、腐りかけの果物が一番美味いとか、
そういう“まずい”と“美味い”の接点にある微妙にして絶妙な味覚を表した言葉である。
“うまずい”の実例については、詳しくは山田芳裕の名作漫画「いよっおみっちゃん」参照のこと。
詳しくなりたくなくても、あれは読んだ方がいい。悪いことは言わないから。


チェリー・コーラに話は戻るが、
微妙な味とわかっていても飲みたくなるのは、わけがある。


キンクスの1970年のヒットに「ローラ」という曲がある。
バーで出会った絶世の美女、よくよく見たらオカマちゃんだったのよ〜、
というようなストーリーを、“笑い”ではなく、劇的な感動にしてしまう、
感性逆立ちな素晴らしい歌なのだが、
その曲の冒頭、オカマのローラに見とれる主人公が飲んでいるのが、コカコーラ。


コ・カ・コ〜ラ。


という節回しが小気味よいんだな。


ところが、この曲がイギリスでヒットして、続いてアメリカでもブレイクかというときに、
アメリカのコカコーラ社から商標侵害とのクレームがついた。


そのため、リーダーのレイ・デイヴィスは、
アメリカ盤のみ、コカコーラをチェリー・コーラに歌い替えたのである。


しかし、この、何とも風変わりな“うまずい”ソングには、チェリー・コーラの方がよく似合うような気もする。
オリジナル至上主義とやらで、最近の復刻CDは、チェリー・コーラ版を抹殺しているが、
ときどきぼくはチェリー・コーラの味方をしたくなるのだ。