あのひとは何かの達人に違いない
家の近所に“なんばの小径(こみち)”がある。
勝手に名付けた。
大通りから少し日陰に入って、
塀に囲まれた十数メートルの道。
うまい具合に人目から遠い。
そこで人知れず、
例の“なんば歩き”を試してみることがある。
ある夜、おもむろに“なんば”しようとしたら、
向かいから人の影。
見ると、年嵩の男性。
ロングヘアでオールバック。
水分を極端に抑えたような精悍な顔つきで
そそくさと通り過ぎる。
何だか知らないが、あのひとは何かの達人に違いない。
ぼくの“なんば”は見切られた。
心の中で「うぎゃっ!」と叫び声をあげつつ、
手足を普通に戻した。
“なんば”修行は、まだまだであった。