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なにかあり/とくになし

「アコヒーダ」にさよならを言えなかった

ちょっと前に気がついたのだが
阿佐ヶ谷駅の南口駅前で
大きなマンションの建築が始まっていた。


毎日ホームから見ていたはずなのに
不覚だった。


そのマンションの敷地面積に
愛する「アコヒーダ」が含まれていたとは。


阿佐ヶ谷駅南口の喫茶店「アコヒーダ」は
もう跡形もない。


商店街特有のせわしなさと
気張らない落ち着きが同居した
あの雰囲気が好きだった。


無駄に種類が多かったコーヒーを
飲み尽くすことはできなかった。


「アコヒーダ」を発見したころ
まだぼくが手書きで文章をしこしこと書いていた。
その文章が載るアテは
自分で作るミニコミしかなかった。


通りに向けて
窓を大きく取った
古いタイプの喫茶店


こだわりは
あると言えばあるし
ないと言えばないような。


こっちもほっとくから
あんたもほっといとくれと
店が毅然としているような。


ぼくはその誇り高い普通さに隠れた
鈍い灯りの誘蛾灯に吸い寄せられた
蛾のひとりだ。


「アコヒーダ」に
さよならを言いたかったな。