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なにかあり/とくになし

道草の真相

総武線大久保駅で途中下車した。


大久保駅の南口は小さくて、
普段の乗降客は決して多くないが、
そこから西新宿方面、小滝橋通りを目指す路地は
それなりにB級グルメなにぎわいを見せているので
決して無視できない。


いつもぼくは
この誘惑の多い道を通って
大好きなバーンホームズ・レコードへ向かう。


ただし、今日の行き先は違って
ちょっと開店の遅い別の店。
どうしても欲しいレコードが
そこなら売っているのだという情報を入手した。


しかし、そこを経由してしまったら
12時までにハイファイには着かないかもしれない。
イソガネバ。


早足で歩きながら、
もう少しで路地を抜け
広い通りの光を浴びようかというところ、
そこで一枚の看板が目に留まった。


手打ちうどん
ランチ:かき揚げうどん500円。


さぬき風とか
薄味だしとか書いてあったかどうかは定かではないが、
激しく心を惹かれたのだから
たぶん、そういうことが書かれていたのだろう。


東京風の濃い味うどんも嫌いじゃないけど
生まれ育った西日本風の薄味だしに弱い。


時計と看板を見比べ、
一瞬だけ考えたが、
やがて、
ふらふらと吸い込まれるように階段を降りていた。


するとどうだ。
以前はカウンターバーだったところを改装したような作り。
店内で流れるのはレゲエ。


しくったか……。
少なからず緊張しながら
長田弘「ねこに未来はない」(角川文庫)を読み、
うどんを待つ。


しかし、
出てきたかき揚げうどんを見て
目を疑った。


かき揚げが丼からはみ出してるよ!


揚げたてサクサクの部分と
薄味つゆに浸かってとろけた部分と
こしのある手打ち麺のハーモニーは
無骨なようでキーが合っている!


心で感謝の拍手をしながら
店を出た。


その後、
よゆうしゃくしゃくで向かったレコード屋では
目当てのレコードはあっさり売り切れていた。


「また入荷するかどうかはわかりませんね」と
店員さんの反応は
木で鼻をくくったようなものだったけれど、
怒らないよ。


(以下、心中モノローグ)
あなたは、
あのかき揚げうどん
食べたことあるの?


きっと、ないでしょ?
だから、そんなに冷ややかなんでしょ?
おれはうどんでほかほかだよ!


レコードは買えなかったけど
あのうどんを食べたことで
ぼくは店員さんに勝利したのだと思うことにした。


ハイファイには
案の定、30分遅れで到着した。


これが道草の真相だ!
ごめんなさい!