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なにかあり/とくになし

長崎書店で恋をして

案の定、
酒は残った。


朝シャワーで使ったボディソープの匂いだけでも
「ウッ」と胃液がこみあげてくる。


ほうほうのていでホテルを脱出し、
すぐ近所にあった映画館にツマとしけこむことにした。


早朝の上映は
フランス映画「DISCO」。


グラサンをはずした秘密博士みたいな中年男の、
と言ってもぼくと同い年の設定なのだが、
ディスコ青春人生復権ストーリー。


東京からは数ヶ月遅れでの上映とは言え、
田舎で朝イチに見る映画としては
なかなか異なもの乙なものだ。


間は抜けているが
結構泣かせる。


エマニュエル・ベアール
おそるべき美貌が、
ゆるゆるにゆるんで
ぼんやりと輝いているストーリーへの
ワンランクもツーランクも上のご褒美になっていた。


映画が終わるころに
ようやく二日酔いが抜けた。


ツマの携帯に獣医さんから留守電が入っていて、
その後、
猫の様態かんばしからずということがわかった。
今すぐに最期が来るわけではないが、
その日はもう遠くないというニュアンス。


まだ帰ることは出来ないため、
とりあえずの容態を見守っていただくことをお願いする。
帰京後、
今後の方針を決めることになった。


気は重いが
じりじりと
こうして覚悟を決めてゆくしかない。


長崎の実家に一足先に帰るツマを見送って、
もう一度熊本市内に。
スタバにて原稿を書いて入稿。


それから、
昨日見かけて気になっていた場所まで歩いた。


その場所とは
上通りと呼ばれるアーケード街のなかほど、
長崎書店という本屋さん。


ぼくが用があるのは
その正面にある
一枚の油彩画だ。


赤いセーターの女の子が
書店で本を読んでいる
シャガールゴーギャンと珈琲の香りが
彼女の髪の揺れとともに一緒に薫りたつ
そんな絵だ。


絵の中の彼女に声をかける。


あなたは何を読んでるんですか?
今、ぼくは末次由紀の「ちはやふる」を
今さら読み始めたところなんです。
漫画ですけどね。


思わず店員さんに質問してしまった。


あの娘の名前は?
いや、
あの絵を描いた方のお名前は?


女の店員さんは
もう何百回目かしらと慣れた調子の顔をして
「アオヤギアヤさんという地元のイラストレーターさんに
 描きおろしていただいたものです」
と答えてくれた。


その一瞬で十分だった。
長崎書店でアオヤギさん(の絵)に恋しちゃいました。