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なにかあり/とくになし

すれちがい

20日
サケロックの打ち上げの席で
ベースの田中馨
楽屋にレコードを忘れたと言い出した(その後、無事に発見)。


ピンクのレコード袋に入っていたんですと、
馨くんは言った。


ピンクの袋と言えば
上通りを抜けたところにある
「ウッドペッカー」という店に違いない。
ぼくが中学、高校とよく通った店だ。


当時は「ウッドストック」という名前で
長髪の店長は「ケンさん」。
熊本のロック少年の間ではちょっとした名物的な存在だった。


ケンさんは今では店の運営からは一歩身を引いていて
市内でロック・バーを経営しているのだと
かなぶんやさんから聞いた。


店の名は
「ケン・レノン」というらしい。
行ってみたいような気もするが
ケンさんは高校時代のぼくのことなど
覚えちゃいないだろう。


今回の帰省の目的のひとつにと考えていた
少年時代の友人で
結婚し
実家で住職をしているTとは
結局すれちがいで会えずじまいだった。


もしや会えるのではないかと
Tが昨日の朝から
檀家まわりの途中で実家を訊ねてきてくれていたというのに、
ちょうどそのころ、
ぼくは二日酔いで
熊本市内で映画を見ていた。


Tは写真とレコードと手紙を置いていった。


この正月に行われた小中学校時代の同窓会の集合写真と
キャプテン・ビーフハートのLP2枚と
手短で
しかし彼らしい文面の手紙。


ビーフハートのレコードは
彼が高校時代に買ったもので、
ウッドストック」で20年前に使われていた
店のロゴ入りの透明ビニールに入っていた。


手紙には
ぼくにこれをくれるという意味の文面と、
ケンさんに
「高校生でこういうの聴くの? 凄いね」と
言われたことを覚えています、
とコメントが添えてあった。


まったく
ぼくらは
耳と欲と背伸びだけを頼りに
あのとき生きていたんだと思う。


ときどき懐かしくて
ときどきモンスターのようにおそろしいその過去を
ぼくに託したのか
押し付けたのか知らないけど、
彼はわざわざやって来たのだ。


今日はツマの実家(諫早)に電車で移動する。
電車の窓から
景色を見ているうちに
Tが住職の姿で
バイクに乗って田舎道を走っているんじゃないかと思って
吹けない口笛を吹きたくなるような
熱くて切ない気持ちになった。


曲はキャプテン・ビーフハート
「ハリー・アイリーン」で。


道中で受けたメールで
ライナーノーツの仕事を2本いただいた。
ありがとうございます。