mrbq

なにかあり/とくになし

今の私と生活のあいだ

アンコールの一曲目「今の私」が
はじまったとき、
ライヴハウスの上を走る電車の音が
ごごごおおおっと不意に大きく響き
ぼくを含めて何人かのお客さんが上を見上げた。


合図のような音だった。


そして曲が終わったタイミングで
携帯がぶるっと震え
メールが届いた。


猫の容態が急変。
さきほど亡くなったという報せだった。


ツマの実家を出て
ぼくだけ別行動で博多に向かう今日の朝、
すでに獣医さんから
事態が深刻だとは聞いていた。


だけど、
もうちょっとだけ
待っていてくれると信じていたし、
どこかで思い込んでいたんだよな。


ぼくもツマも肝心なときに離れたままで
わるいことをしたという負い目と
長くくるしむことがなく
それはよかったかもしれないという小さな安堵が
ぐるぐると頭のなかをまわる。


ただ言葉にすれば
その感情は
「あっ!」だ。


博多BEAT STATIONの舞台の上で
サケロックのアンコールは
いやおうなく最後の対決「生活」へと向かう。


ハマケンの即興スキャット
それをドラムで完璧に切り返す伊藤大地
ぐだぐだで
しかし
追いつめられたハマケンにしか出せない
“どM”の美学による奇跡のスキャットを求めて
対決は続いた。


この対決にハマケンが勝利しないと
「生活」は始まらないことになっている。


この日、
共演のグッドラックヘイワ
引き締まったかっこよさにもいじけ、
対決前半でもやりこめられ、
さんざんへこんだ挙げ句、
何の段取りもなかったのに
ハマケンは最後にすごい仕事をした。


詳細はきっといつか報告されるだろうから
ひとことで言う。


二階で吠えた。


そうだ、
ハマケン、
もっと
とりかえしのつかないことをしろ。


泣き笑いなのか
笑い泣きなのか、
こうして
この混乱の時間のなか、
「今の私」と「生活」のあいだで、
猫が送られていった出来過ぎな瞬間を
ぼくはなかなか忘れられないだろう。


つくづく
心の整理をゆるさないやつらだなあと
サケロックにしずかに感謝した。


よし、飲もう。
博多は雪がちらついてるぜ。