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なにかあり/とくになし

かくれてないで

昨日、
猫が来た。


話はとんとん拍子で進んだのだ。


獣医さんの薦めでちょいと気になって、
拾い主さんの家で対面してその気になって、
話しているうちに
どうぞこのままお持ちください、ええほんとですか?
そんな流れ。


生後4ヶ月くらいの
茶黒まだらの
ちいさな猫(♀)。


全身が焦げ茶なのに
しっぽの先だけが
ちょこんと白い。


それがまるで
筆の先のようなので
名前はそれにちなんだものに決めた。


しかしこの猫、
おとなしいとは聞いていたが
おとなしいどころか
度を超した引っ込み思案なのかもしれない。


生まれて間もないせいもあって
まだいろんなものを見ていない。


見慣れない家
見慣れない人間、
嗅ぎ慣れないにおい。


甘えてもいいんだとわかってもらうまで
もう少し時間が必要なタイプらしい。


今朝がた、
新猫現るとの一報を受け、
中野の弟が仕事の途中に家までやってきた。


確かにその3分前まで
目の届くところにいたのだが、
どうしたものか、
その瞬間から行方不明になってしまった。


どうせそのうち出てくるだろうと
ぼくも仕事に出かけたが、
その後も気になってしょうがない。


ツマに訊くと
見当たらないどころか
気配すらしない、
逃げてしまったのではないか、という。


夕方を過ぎるころには
妙な余裕はイヤな予感に変わり、
夜に帰宅して
ご飯のにおいがしても出てこないという事実に
絶望のハンコを背中に押された気分になった。


出ていったとしたら
朝、弟が来てドアを開けたあの瞬間?
一瞬とは言え、目を離したすきに
外に飛び出したのだろうか?


それとも亡くなった猫が
まだ早いぞえ、
せめて四九日は待つものぞえ、と
ぼくらに警告を送っているのだろうか?


13年の次は1日かよ。
思い出をつくる間もなかった。
悲しみよりも苦みで胸がいっぱいになってしまい、
もう寝るしかなかった。


ふさぎこむ、
とはこういうことだ。


以下、つづく……、












































……とみせかけて、明け方。


かさこそ、みしみしという物音で目が覚めた。


雨か風か、
古いマンションなので建物がきしむ音か。


だが、
次の瞬間、
寝ているぼくの頭の上を
確かに何かがとととととととと横切った。


いた!


夢じゃないよなと
むくっとからだを起こすと
確かに目の前にちいさな黒い影がいた。


のっそりと手を伸ばしたら、
またとととととととととどこかへ行ってしまった。


でも、いいんだ。
いたよ、いたんだよ。
ぼやけた頭にしあわせがポッと灯る。


亡くなった猫は
自分大好き猫だったけど、
いなくなってからも
ぼくらを苦しめるような心のせまいやつじゃなかった。


ただ、
あの世でちょっとだけ嫉妬しているのか、
次の猫との親しくなるのに
手間をかけさせようとしているのかもしれない。


寺尾紗穂の名曲
「かくれてないで」を
頭の中で再生しながら
もう少しだけ寝ることにした。