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なにかあり/とくになし

さよならを教えて

ラ・シエンガ・ブールヴァードを車で北上していたら
赤信号が点滅している。


ロスにしては順調に車が流れていたのに、
そのうち完全に止まってしまった。
昼から渋滞だ。
ついてない。


「見て!」
ドライヴァーが指差したその先の交差点を
何台もの消防車、パトカーが
数珠つなぎになって左に走って行く。


どうやら、これが
通行止めの原因らしい。


しかし、
おかしいのはやかましいサイレンの音が聞こえないこと。


これが事故だとしたら
洒落にならないくらいの大惨事だろう。
それなのに、大量の車列は
ただ淡々とおごそかに
するすると左に流れている。


前にも
似たような光景を目撃したことがあった。


マンハッタンをニュージャージーの方に抜け出そうとしたある夜、
やはり数十台、いや数百台規模のパトカーが
しずかにある方向に走り抜けて行った。


戒厳令
この世の終わりかと思った。


十数分後に車が動き出してからも
しばらく狐につままれた気分になっていた。


昼と夜との違いはあるけれど、
今、目の前にある光景は
あのときの不思議な緊張を思い出させる。


そのうち
ドライヴァーが
腑に落ちたように言った。


「これはお葬式ですよ。
 警官や消防士が交通事故で殉職すると
 後日、その現場に同僚たちが出向いて
 事故の時間に合わせて、お別れのセレモニーをするのです」


その権利は
公的に認められているのだそうだ。


だとしたら
あのときマンハッタンで行われていたのも
誰かのお葬式だったのだ。


思わずハッとして
ぼくは親指を隠した。


そうしないと親の死に目に会えないよと
教えてくれたのは誰だったっけ?