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なにかあり/とくになし

月がとってもまるいから

山の向こうに
黄色い幼稚園帽のような半円が見える。


夕日かなとも思ったが、
夕日は西に沈むもの。


今、ぼくたちが車で向かっているのは
東だった。
だとすれば、あれは……
と思う間もなく、
シュポン!と栓を抜くようにして
お月様はあっさりとそのまるい姿を現した。


「この月、
 何かデカくないすか」


そう言おうと思ってたのに!
アメリカに4年住んでるというドライヴァーの男の子に
タッチの差で述べ負けした。


あんまんのような
まるい月は
まごうことなき満月だった。


デカく見えるのは
月と地球が近づいてるせいか、
それとも光の反射なのか、
カリフォルニアの青い空は
夜になっても透明度が高いってのか。


見とれていたら
いつの間にか、
あたりの景色が
目的地とは雰囲気の違う
かなり柄のよろしくない地域に変わっている。


「これ、ひょっとして……?」
「すいません、間違えたみたいす」


でも怒る気にはならない。
彼はとてもまじめで
憎めないやつ。


3月には日本に帰るっていうから、
東京に来たらめしでも食おうよ。
それに、あんなにデカくてまるい月を見たら
誰だって道を間違うよ。
人生だって間違えるかも。


こういうときは、遠回りして帰ろ、って
日本の古い歌があってね、
あれ? 本当は「青いから」だっけ?


なんて言ったら歳の差がばれるから
やめておこう。


お月さまのお導きで、
そのあと、さらにもう一回道を間違えて、
ぼくらはかなり立派に遠回りをしたのでした。