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なにかあり/とくになし

My Favorite Great Musical Adult Children

今回のロス訪問もいよいよ最終日。
最後の晩に
運良くの食事の約束が取れた。


そのお相手は
アンドリュー、
そしてビル。


アンドリューは
ライノ・レコードで働く
リイシュー・コーディネイター
アンドリュー・サンドヴァルの名前でCDもリリースしている
ミュージシャンでもある。


ビルは
現在こそライノを離れてフリーランスとなったが、
60〜70年代の再発音源を
鮮やかに、
しかしオリジナルの音色を保ったまま現代に甦らせる
世界最高のリマスタリング技術の持ち主。
すなわち、ビル・イングロットそのひとだ。


東海岸のサンデイズド・レコードを拠点に仕事をしている
ボブ・アーウィンと並んで、
エンジニア、リサーチャーとしてのビル・イングロットを、
音楽マニアの理想的な姿として
ぼくは大変に尊敬してきた。


アンドリューはライノでずっとビルのアシスタントを務めていて、
いわば弟子筋にあたる。


ふたりとも生粋の
そして世界的に見ても
超A級の音楽オタクであることは間違いない。


一年前にロスを初めて本格的に訪れたとき
友人の紹介でふたりと知り合った。


彼らは開口一番ぼくたちに言った。


「日本で出たA&Mのシングルボックス
 あの選曲はもうちょっとどうにかならなかったの?」


60年代の音源が少なすぎるし、
70年代以降のあれやこれやは意味ないよ。
だいいち日本は60年代A&Mサウンドの価値を
世界で一番理解している国なんだろ?
と彼らは抗議したかったのだ。


そんなことをぼくに言われても困るが、
その質問を笑えるかどうかは
このテーブルにおける会話のリトマス試験紙のようなもの。


世界中のごく一部でしか通用しないが、
ぼくにとってはその場にいられることを心から感謝したくなる
ものすごく偏ったパーティー・ジョークなのだ。


ぼくはすぐに彼らのことが大好きになった。


でも、ちょっと困ってしまうこともある。


目の前に客人(ぼく)がいるにも関わらず、
ふとスキが出来るとすぐにふたりは
「あのキンクスの未発表音源はこうだった」とか
「ニルソンの初期アセテートを手に入れたぞ」とか
そういう話題に没頭してしまうのだ。


前回も
今回も。


だいたいそんな話、
仕事中に毎日してるでしょうに。


でもそのいちいちが
おもしろく
とんでもなくためになるから、
彼らに好きにしゃべらせておくのも勉強のうちなのだ。


まったく相変わらず
ふたりともあきれるほどの
アダルト・チルドレン
もとい、
マイ・フェイヴァリット・グレート・ミュージカル・アダルト・チルドレンだ。


おまけに今回わかったのは、
ぼくもアンドリューもビルも
ひとかたならぬ猫好きだということ。


先月、猫を亡くしたんだと告げると
アンドリューは心からのお悔やみを言ってくれて、
でもすぐに新しい猫を飼うことが出来たんだと写真を見せたら、
「うちのもかわいいぞ、年寄りだけどな」と
ビルは愛猫の写真を携帯で見せてくれた。


ビル・イングロットが飼ってる猫の写真を
ぼくは見たんだぜ。


ライノのCDのクレジットに
ビル・イングロットの名前を見つけてはひとりで悦にいっていた
昔の自分の肩をたたきながら、
大きな声で自慢してやりたくなった。