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なにかあり/とくになし

「白衣」について

新宿駅で下りの総武線をツマと待っていたら
革ジャンにタイトめのジーンズを履き
髪を立てた
非常にわかりやすいかっこうのパンクスが
ふたり連れでぼくのうしろに並んだ。


ライヴのあとなのだろうか、
ジーンズにはどこかのライヴハウスのものらしき
バックステージパスが貼ってあるのが見えた。


妙に上気したふたりの会話は
人ごみのホームでも
際立って耳に入ってくる。


「明日から二連休だよ〜」
「え〜、二連休、いいじゃん」
「なに言ってんだよ。
 連休つったらさ、朝昼晩とずっと飲みっぱなしだろ?
 働く日より疲れちゃうんだよ〜」


うわあ
近ごろあんまり聞かない
典型的ロケンロールな会話じゃないか。


乗り込んだときに
座席がちょっと離れて聞き取りにくくなってしまったが
彼らの会話は
中野止まりの電車のなかでも続いた。


そして電車が終点の中野駅に着いたころ
ふたたび彼らのそばを通ると
こんな話をしていた。


「なあ、あの“ハクイ”、
 やっても、すべるか、ヤヤウケだから
 もうやめようと思うんだ」
「あ〜、そのほうがいいかもな」


そのまま彼らは中野駅のホームを
ふたりしてダベりながら
そぞろ歩きで去っていった。


「ハクイ」?
「白衣」?


頭のなかで
彼らのバンドが演奏する曲「白衣」が
すべるか、ヤヤウケに終わる場面を想像する。


それってどんな感じ?
スターリンの「天ぷら」みたいな曲?
お客さんはシーンとしているか、拍手がパラパラ?
間違ってもダイブも起こらない?
だって曲は「白衣」だから……。


ツマにその妄想を話すと、
「きっと、あのふたりはお笑いのひとだよ」と言う。


だとしたら
彼らはパンクス漫才が売り?


「どーも! いらっしゃいませ〜!」と舞台に出てきて、
まず軽〜く中指立てて。


「ショートコント! “白衣”!」


ますますわからん。


以来
「白衣」のことが
一日のうち数分は気になって思い返しています。