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なにかあり/とくになし

12年目のジェイク その3

1999年12月の
ジェイク・ジェイコブスとのインタビューで
今もはっきり覚えているやりとりがある。


Q:あなたは60年代のニューヨークで興った
  グッドタイム・ミュージックのはじまりの
  その場に居合わせていますよね。


A:その通り。
  あれは1964年のことさ。
  それまでグリニッチ・ヴィレッジにいたわたしたち若者は
  古い黒人音楽やフォークをなぞることに必死だった。
  いかにして昔あった本物を我が物にするかが、とても大切だったんだ。
  でも、ビートルズがイギリスからやって来て、すべてが変わった。
  自分たちのオリジナル曲で、若者らしいビート・ミュージックをやろう、
  そういう気持ちが一気にみんなに芽生えたんだ。
  でも、それまでにやっていたブルースなんかは自分のなかに残っている。
  だってそれもすごく大切なものだったわけだから。
  そのふたつの要素がぼくたちのなかでひとつにミックスされていった。
  それがつまり、グッドタイム・ミュージックだったんだよ。


このとき彼は
単に音楽の歴史を俯瞰して
一般論を述べたかったわけじゃない。


当事者として
自分の身に起きたことを
率直に
そして
とてもしあわせそうに語ったのだ。


自分のなかに培われたものは
ウソをつかないという感覚でもある、かな。


昨日まではこうでしたけど
今日からは違うんです、
そう言おうとしたって
過去は勝手にきみに付いてくる。


自分の生きてきたやりかたと仲良くする、
よいこともわるいことも引き受けることでしか
グッドタイム(いい気分)なものは生まれないよ。


……と、そんなことまではジェイクは言ってないけど
勝手にそんなメッセージを受け取った気になって
しばしトリップしたように
ふわふわと質問を続けていたと記憶している。


最後に
「今、アルバムを作っているんですよね」と
ジェイクに訊いた。


ジェイクはこう答えた。


「やりたい曲はたくさんあるからね。
 ピーター(・ゴールウェイ)やテリー(・アダムス)が手伝ってくれて
 すごく素敵なものになりそうだ。
 わたしも楽しみにしているんだよ」


そして今は
2011年の12月。
結局、あれから12年が経って、
ようやくジェイクの新作は届いた。


長い時間が費やされた結果、
レコーディング・メンバーも
12年前の予定とはずいぶん変わったようで、
ピーター・ゴールウェイはほとんど関与していなくて
地元のミュージシャンたちとレコーディングした曲が多くなっている。


でも
テリー・アダムスとトム・アルドリーノも1曲参加しているし
愛すべきあの“バンキー”・スキナーがコーラスをつける曲が6曲あるし
マジシャンズ時代の盟友ゲイリー・ボナーや
ラヴィン・スプーンフルのジョー・バトラーの名前も見える。


一曲目の「リングス」から
まるで道ばたでのあいさつみたいな気軽さで
ジェイク・ジェイコブスの歴史と人柄そのものの音がした。


普通だったら
時代が止まったみたいだと感じてしまうようなその音楽に
そういう古臭くてカビ臭い匂いが全然しないのは
ジェイクという人間の
ウソのない人生が
この12年のあいだも
何十年かの音楽人生のあいだも
音楽をやっていないあいだも
ずっと続いていたからだろう。


懐かしい、とすら思わない。
これはジェイクの今だから。


サンクス・クレジットには
このアルバムの発端を用意してくれた人物として長門芳郎さんの名前が。


そして
ソウル・メイトとしてのバンキー・スキナーや
いろんな関係者への謝辞が。


テリー・アダムスへの謝辞は
ひときわぼくの心を打った。


(Thanks to) Terry Adams for always making me feel like I had somethin'.


わたしには何か素敵な才能があるといつも思わせてくれてありがとう。


ジェイクは
ミュージシャンとして恵まれた人生を送ってきたとは言えない。
彼が残してきた素晴らしいレコードも
レジェンダリーな人物だという事実も認知されていない。


彼が住むニューヨークでさえも
ライヴをやる機会はほとんどないし、
音楽以外の人生を生きてきた時間のほうが
下手したら長い。


そういう境遇にある人物が
「才能あるよ」と心から言ってもらえることのありがたみや
言いつづけることの覚悟は
ぼくにだってわかるのだ。


だから
ぼくは決めた。


来年の1月、
ニューヨークで行われる
新生NRBQのライヴに
ジェイクはゲスト参加する。


見に行こう。


そして
あなたの新作はとても素敵だったと言おう。


可能ならもう一回取材して
それをどこかの雑誌に載せられるようやってみよう。


そのとき
ぼくの12年前の約束は
ウソじゃなかったことになる。


だって
ジェイクは12年前の約束を守って
こんなに素敵な新作を出したんだから!