mrbq

なにかあり/とくになし

すきまから

フリーボのことを
本当にひさびさに思い出したのは先月。


カクバリズム角張社長と
坂本慎太郎「幻とのつきあい方」の話を
あれこれしていたときのこと。


あのアルバムで聞こえる
印象的な女性コーラスのひとりが
フリーボの吉田奈邦子だという事実を彼から告げられ
ちょっとドキドキしたのだ。


実を言うと
アルバムのクレジットは
ローマ字で書かれているので
NAOKO YOSHIDAという文字と
フリーボの吉田奈邦子は
ぼくのなかではそれまで一致していなかった。


そのふたりがおなじ女性だとわかり
驚くぼくの口からぽろっと出た言葉と
角張社長が次に言った言葉は
奇しくも同じものだった。


「フリーボの「すきまから」は最高だ」。


吉田さんはもちろん
フリーボの石垣窓さんとぼくは面識が(たぶん)ない。
フリーボがE.H.Eからリリースしたデビュー作「すきまから」を経て
メジャー・デビューした90年代後半、
ぼくは高田馬場レコード屋で毎日の仕事に追われ、
もちろんライターの仕事もしていないし、
彼らのライヴを見に出かける時間も気持ちの余裕も持ち合わせていなかった。


それでも
「すきまから」はどこかで見かけて
発売直後の96年に新譜で買っていた。
当時とてもよく聴いた記憶も愛着もある。


なのに手元にないってことは
愚かにもどこかのタイミングで手放してしまったみたいだ。


サニーデイサービズ以降の後期渋谷系とか
70年代リバイバル的な気分や喫茶ロックとか
そういうものとは関係なく
まっさらに才能に感動していたつもりなのに
彼らの取り上げられ方や周囲のムードに
妙な抵抗感を抱いて
自分で勝手に聴きにくい感じを作ってしまったからかもしれないし、
無職になった時期に
ただ単純に金に困って手放すしかなかったのかもしれない。


あの夜、
フリーボと言えば、という話の流れで
角張社長から聞いて
星野源J-WAVEの「ragipedia」で
ジンタの「ゴンドラの唄」をかけたことも遅ればせながら知った。


ジンタがJ-WAVEで!
星野源が「ゴンドラの唄」を!


ジンタは
90年代後半に
高円寺のペンギンハウスなどを根城に活動したグループで
不遇と言っても差し支えのない知名度ながら
熱心なファンを持っていた。


2000年の解散ライヴを収めた2枚組が「青天の霹靂」。
星野源はそこから「ゴンドラの唄」をかけたのだそうだ。
黒澤明の「生きる」で志村喬がブランコに揺られながら歌うあの歌を
彼らは「青天の霹靂」の一曲目に演奏していた。


人間の臭みや
どうしようもない感情を
悲しいくらい集約させた
骨太なのに痩せて鋭い目をした
かけがえのない純度の音楽がそこには記されている。


そして
そのジンタのアルバムに
フリーボの石垣窓がライナーノーツを寄せているのだ。


さいわいにも
ツマの長年の愛聴盤である「青天の霹靂」は
家計の不況による流出を免れていた!
こちらもひさびさに聴いたが
やっぱり素晴らしい!


ああ!


でも
「すきまから」をもう一度
猛烈に聴きたい。


大きな音でタイトル曲の「すきまから」を。


晴れやかな曲なはずなのに
ノスタルジーになんて消化できそうもない
胸の苦しさに今も襲われることに
びっくりしたいんだ。