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なにかあり/とくになし

西荻へ

本当は昨日
書いておくべきだったこと。


7時までに戻るからと
仕事を抜け出して
西荻へ。
ラピュタ阿佐ヶ谷
「怪優・伊藤雄之助」の一本を8時から見るのだという友人も
「一時間くらい、こっちも見ようぜ」と巻き込んで。


着いたのは
駅前からすこし路地にはいったビリヤード場。


はて……?
この2階が会場だと聞いたけど
あたりはしんとしずかだし、
ビリヤード場にはひとの気配がない。


友人が中を覗きこむと
上にあがる階段が見えたというので
「おじゃまします」と心のなかで唱えて
だれもいない店内にはいった。


ぎしぎしと小さくきしむ階段をのぼると
ひとがいた。
結構たくさん。


イベントは
もうはじまっていた。
からしずかだったのか。
ライヴとは違う。
トークだからじっと聴き入るのが熱気の証拠だ。


『Get back, SUB!』刊行記念 第56.5回西荻ブックマーク
SUB CULTUREのスピリットを求めて


というのがこのイベントのタイトルで
出演は
北沢夏音
荻原魚雷
森山裕之。


北沢さんはもちろん「Get back, SUB!」の著者であり、
森山さんは
「クイック・ジャパン」連載当時の編集長にして担当編集者でもあり、
荻原さんは直接に連載には関わっていないものの
同誌に執筆をしていたし
このテーマにふさわしい業(ごう)の持ち主として
異論があるはずもない。


遅れて入ったこともあって
すごすごと最後部の席へ。


3人が囲むテーブルの上に
本の主題でもある幻のリトル・マガジン
「SUB」の実物らしきものが見える。


座談会は
「SUB」をめぐる取材の裏話になるかと思いきや、
話の流れは
そういうものとは違った。


むしろ中心になっているのは
彼ら3人が
雑誌作り、本作りにかかわる生き方を選んだわけや、
普通よりうんと面倒くさい方法をいとわずに
サブカルチャーというものの本質や
来し方行く末を見届けようとするのは何故かといったようなことを
3人それぞれの半生と照らし合わせながら語る
じれったいくらい誠実なものだった。


座談がしずかに熱気を増しはじめたころ、
階下に客が訪れたらしく、
キューで球を突く「トン」「カコン」という音も
気持ちの良いバックグラウンド・ノイズとして共鳴しはじめた。


幻のリトル・マガジン「SUB」がかつて志し、
その先にあったはずの理想郷を、
そのビリヤードの音が
街の雑音と響きあう居場所に置いてくれるような気がした。


最後まで座談会を見届けたかったけれど
約束した時間に対して
今から戻っても
すでに一時間オーバー。


後ろ髪を引かれながら
そそっと退散した。


それにまだ
ぼくは「Get back, SUB!」を読み終えていない。
毎日すこしずつ読み続けていて
いよいよ終盤にさしかかっているところ。


だから
座談のフィニッシュを見届けないくらいが
ちょうどいいのだ。


と強がりを言う
冬の午後。
上りの総武線
がらがらだった。