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なにかあり/とくになし

小口にて

最近買った3冊のコミックが
重ねて積んであるのを見ていたら
妙なことに気がついた。


本の背表紙とは反対側、
つまりページのめくられるほうの端の連なりを
“小口”という。


その小口の色合いが
3冊見事に違う。


一番上は比較的白っぽく
真ん中のは一部極端に黒い部分があり
一番したは全体的に黒みがかっている。


それぞれに
書店のブックカヴァーをつけているので
小口だけでは
どれがどれかはわからないが、
どれもすでに読んだもののはず。


あ、真ん中のはわかる。


岩明均ヒストリエ」7巻。


これはすごかった。
小口が黒く染まったシーンは
ある重要な登場人物の幼少時代の思い出を描いた部分だが、
人間のトラウマを目に見えるかたちで描いたシーンとして
これ以上の描写には
もうなかなかお目にかかれないかもしれない。


電車のなかで読んでいて
腰こそ抜かさなかったけれど
思わずドアにもたれかかるくらい
深呼吸する必要に駆られた。


白い肌からおもてににじみだした
濁った血のような黒い小口だった。


さて
では「ヒストリエ」をはさむ
上下の漫画はなんじゃろか。


一番上の
一番白っぽい小口は
島本和彦アオイホノオ」7巻だった。


え? マジで?
過剰を生きる漫画家、島本和彦が?


らしからぬ小口の白さじゃないか。
このひとには
見開き連発、大ゴマ使いがデフォルトというイメージがある。


しかし
あらためてページをめくって
気がついた。


この一見風変わりな漫画家漫画は、
漫画の描き方の基本に
実はとても忠実に描かれている!


ページの余白はなるべくきちんと取り、
コマ割もオーソドックス、
見開きや大ゴマも“お約束通り”に配置することを意識しているのだ。


もしかして、
それはこの漫画のテーマのための
“わざと”?


漫画の(漫画家の)激しさに似合わない
奇妙なほど礼儀正しいコマ割りに感心しつつ、
では最後の一冊。


小口が一番黒っぽいやつ。


それはまさかの
あずまきよひこよつばと!」11巻だった。


よつばと!」には
原稿の外枠がほとんど存在しないのだ。


すべてが端を見切れているので
小口に描線が見える。


漫画のなかの日常は
最初から外にはみだしている。


それが「よつばと!」の
強さのひとつだった。