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なにかあり/とくになし

16と33と45と78と

こないだ飲み会で
「はじめて買ったシングル盤は?」と問われて
津軽海峡冬景色」と答えたのだが、
そのあとしばらくして
津軽海峡冬景色」はすごく好きだったけど
自分のお金でシングルを買うほどではなかったと思い出した。


小学三年生だったぼくには
600円もするシングル盤を買うのは
まだまだとんでもないぜいたくだった。


すこし
あのころのことを
思い出してみる必要がある。


シングル盤ということで
このころ思い出すのは
友人のTくんのこと。


家が近くだったこともあって
仲良くなったTくんの家に遊びに行くと
なぜか「750ライダー」の単行本が何冊か置いてあった。
それを読み始めたら
おもしろくてやめられなくなってしまい、
どういういきさつか忘れたが
何回目かの訪問のときに
とうとうそれをまとめて譲り受けたのだ。


あのとき何故
750ライダー」をTくんはくれたのだろう。
それに不思議なことに
彼はもともと
それほどあの漫画に入れこんだふうでもなかった。


しかもTくんが持っていたのは
確か5巻から7巻くらいまでで、
そのあと1巻から買い直したぼくは
750ライダー」が歳上のひとたちの淡い青春バイク漫画ではなく
連載開始当初はダークでビターなバイク漫画だったことに
ひどくショックを受けることになる。
もうすこし先の話だけど。


なかなかレコードの記憶が出てこない。


そうそう。
Tくんの家には大きなステレオ・セットがあった。
そして
そのステレオには
他とは違うおどろくべき特徴があった。


通常
レコードの回転は33と45しかないはずなのに
T家のステレオのピッチ・レバーには
16と78という見たこともない数字が書いてあったのだ!


それを発見してからは
ステレオでレコードを聴くことが
T家を訪ねる主な目的になった。


といっても
知ってるレコードがほとんどないから
聴くレコードは一枚だけ。


当時大ヒットしていた
黒沢年男のシングル「時には娼婦のように」だ。
たぶん
Tくんのお父さんが買ったものだろう。


それを普通の45回転で聴いたあと、
33にしては「うーん」と唸り
16にしてはケラケラと笑い
78にしてはさらにゲラゲラと大笑いしていた。


のちに
ぼくがチップマンクスの仕事をする原点は
ひょっとしてそれなのか。


その場面
すごくよく覚えているから
一度や二度ではないはず。


一番謎なのは
Tくんと
外で何かしたりとか
わいわいと遊んだ記憶がないことだ!


いったいTくんは
ぼくといて楽しかったのだろうか?