mrbq

なにかあり/とくになし

影響以前の影響

ぼくのレコード黎明期の話
もうすこし思い出しながら続けてみたい。


以前に「ミュージックマガジン」に書いた話だが、
Tくんの家でぼくが「時には娼婦のように」を
繰り返しいろいろな回転で聴いていたころ、
我が家にはすでに
やたらとでかい4チャンネルのステレオ・セットがあった。


確か
父親がゴルフの大きなコンペで
上位に入賞したときにもらってきたものだったはず。


それが小学1年生か2年生のときで
それまでは
ちゃんとしたオーディオセットはなかったと思う。


ということは
やはり「津軽海峡冬景色」は
買ってはいないんだろうな。


4チャンネルのステレオ・セットは
70年代の流行のひとつだったが
我が家ではいわゆるサード・スピーカーは接続せず
普通に左右だけのチャンネルで聴いていた。


家族のだれも
その意味を真剣には考えていなかったんじゃないかな。


ただし
そのステレオには
4チャンネルを体感してもらうための
試供品のサンプル・レコードがついていた。


ステレオの内部(プレーヤー部の下にアルバムを収納出来た)には
クラシックのファミリー全集みたいなレコードもあったが、
ぼくは
その試供盤のA面の方を死ぬほど聴いた。


だから
買うよりも何よりも
最初に好きになったレコードは
やっぱりそのレコードだと思う。


A面をかけると
まず何かのイージーリスニング・オーケストラが流れ、
(いまでも誰の曲かはわからないがメロディは脳内に残っている)
これから4チャンネルの世界が始まりますとかいう
男性のアナウンスがかぶさる。


そして
その4チャンネル音響体感のために選ばれた曲というのが


麻丘めぐみわたしの彼は左きき
ホット・バター「ポップコーン
ジョン・バリー野生のエルザ


この選曲、
今にして思えば
75、76年くらいの試供盤だとすると
ちょっとセンスが古い。
「わたしの彼は左きき」だって
73年くらいのヒット曲なのだ。


ひょっとすると
結構型落ちということで
ゴルフの景品にちょうどよい値段になっていたのかもしれない。


B面をほとんど聴かなかったのは
クラシック音楽が入っていたからだと記憶している。


当時
これを聴きはじめると
何故か二歳下の弟(現・渋谷の弟)がどこからともなく現れ、
「ポップコーン」になると
こたつの周りを追いかけっこして遊ぶというのが
異常に盛り上がった。


さらに言えば
その試供盤の3曲も、
ポップなものが好き
変わったものも好き
ドラマチックなのもOK
というかたちで現在のぼくに宿っていると
言わざるを得ないのかもしれない。


表現に矛盾があると編集者に指摘されたことがあるが
これはすなわち
“影響以前の影響”ということだろう。


さらにもうすこし
この影響以前の影響を
さかのぼってみたい気もする。