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なにかあり/とくになし

「ソルティードッグブルース」と「犬」

三輪二郎のことは
生の音楽より先に
見た目で知った。


きつい天然パーマのカーリーヘアで
仏頂面なのに
どこかくりんとした面立ちのその顔は
写真を見せられて
「これ、大阪のおばちゃん」と言われても
うっかり信じてしまいそう。


ライヴでの良い評判は聞いていた。
会場でもニアミスや見逃しを重ねていた。
でも
こんなかたちで知り合うとは思ってもいなかった。


それが
ついこないだの
阿佐ヶ谷rojiの夜。


真夜中にひとりで
仲間を求めて転がり込んできた三輪二郎
そんな時間にやってきたって
空振りする夜だってあるだろうに。


泥酔なのか
いつもの酔いなのか
朝まで飲むうちに
乳首をさらしたり
床に寝転がったりした。


しょうがないなあ。
でも
なんだかほっとけないなあ。


その印象は
数日後
寺尾紗穂ワンマン・ライヴに
ゲストとして出て来たときも
まったく変わらなかった。


三輪二郎の歌う
ソルティードッグブルース」を聴いて
中勘助の「犬」という小説を思い出したと
寺尾さんは語った。


そのあらすじを彼女が簡単に語ると
場内には笑いが。


「ワフ、ホフ、ホフ、ホフ……」と
犬の気持ちでこの曲を歌った三輪二郎には
少々残酷なあらすじだったから。


でも
その見立ての鋭さや
隠し立ての出来ない率直さが寺尾紗穂だし、
いちいちしおれたりしないしぶとさが三輪二郎にもある。


それに
ふたりの歌は
不思議なくらい相性が良かった。


アンコールでふたりは
大寒町」をデュエットした。


「おお、おおさむまちに……」と嘆くように歌う三輪二郎の声は
どこかから聞こえてくる遠吠えのようだ。


その遠吠えは
普段は奥底にしまってある
生きてることにまつわる
みっともなさやせつなさを
こっちに出て来いよと誘い出す。


つまり
ぐっとくるってことだな。


それとも
大昔に坂本九が歌った
「ひとりぼっちのふたり」って曲のことを
思い出したり。


寺尾紗穂
三輪二郎
中勘助の「犬」を
連想したのは
そういうことも込みなのかな。


これで
ぼくも「犬」を読んでいて
そうだそうだとうなずいてりゃ完璧なんだが
そううまくはいかない。


今、
寺尾紗穂三輪二郎の「ソルティードッグブルース」で思い浮かべた
中勘助の「犬」を
すごく読みたい。