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なにかあり/とくになし

わたしの彼は右ききで、わたしの彼女は左きき

約10年ぶりに目撃した
ショーン・オヘイガンは
さっきまでそこに立っていた男だった。


ハイラマズの奇跡の再来日公演の一環として
リーダー、というよりハイラマズそのものである
ショーンの弾き語りソロを見ることができるなんて、
ささやかなプレゼントのふりをして
泣かせないでほしい。


「今日はハイラマズの曲を
 ぼくひとりでやります」


彼がそう言ってステージに腰掛けたその瞬間が
もう至福だった。


繊細で精緻なハイラマズのサウンド
その生みの親であるショーンは
ナイロン弦のギターをつま弾き
歌い出した。


正直、ギターはうまくない。
ミスタッチは多いし、
チューニングにも比較的無頓着。
歌声もフィーリング重視。


だが、
ハイラマズから
飾り物を取り払っていった裸の名曲群は
やはりおそろしいほど心を打つ。


高いところでときおりかすれる声や、
自分で考えたコード進行なのに
難しくて追いつかない指が、
もっと美しいものを、
もっと切ないものをとダダをこねるこどもに思えて
泣けるのだ。


そうかと思うと
ある場面では
無精髭を生やしたショーンの顔は
ピノキオの原型を掘り出したばかりの
ゼペットじいさんのようにも見えた。


この魂が最初にあるから
ハイラマズのサウンドは決して抜け殻にならないし
ぼくたちはいつまでも心を奪われてしまう。
そのことをギター一本と歌だけでショーンは証明した。


そんな機会に立ち会えたことを
感謝したい。


ギター一本と歌と言えば、
台湾から去年デビューした20歳の歌姫
ジョアンナ・ウォン(王若琳)を知ったのは衝撃だった。


と言っても
実は彼女を知ったのは、ついおととい。


ソースは、
昔、一緒にDJをやっていて
今では実家のある関西に移った友人のHP


you tubeに彼女が自画撮りで
ギターの弾き語りをどんどんアップしていて、
その選曲がすごい、ということが書いてある。


どれどれと
覗き見したら
すごいなんてありきたりな表現で
済まされるものではなかった。


まず
スティーリー・ダン「ペグ」
「ヘイ・ナインティーン」、
スーパートランプ「ブレックファスト・イン・アメリカ
トーキング・ヘッズ「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」
クイーン「ホワイト・クイーン」
デヴィッド・ボウイ「サフラジェット・シティ」
ビートルズ「ハー・マジェスティ」……。


おまえは
70年代ロック専の女流しか!


しかも
その咀嚼力と
オリジナリティは
あきれるほど高い。


彼女は
ファインダーの中で、
化粧っ気のない顔で
私服というか部屋着で
部屋の中は散らかり放題で、
私生活を公開するようにして歌う。


まるで歌う着エロ・クイーン。
誰がこの娘をたらしこんだのさ?


おまけに彼女は
左ききでギターを弾くんだ。


LOVEずっきゅん!(by 相対性理論


検索ワードは「Joanna Wang」でよろしく。


ショーン・オヘイガンのライヴが終わって、
帰りにタワーかHMVにでも寄って
ジョアンナ・ウォンのCDを買おうと思っていたのに、
もう閉店時間になっていた。


淡い熱演が
時を忘れさせていた。
それもまた、ハイラマズの術中だ。