今夜、阿佐ヶ谷のバーで

今夜、
阿佐ヶ谷のブルースバーで、
H夜書房のFさんと一息。

ブルースバーに入ったのなんて
十数年ぶり。

Fさんの
「ロックとかブルースがかかっているバーで
　ウィスキーでも飲もう」という
大雑把だがそれなりに切迫したリクエストに応えて、
うろ覚えの記憶から探し当てたのが
南口の細い路地にある2階の店。

ふたりとも酔っていたが
くらくらしていた理由は
酒ではない。

ついさっきまで居合わせた場所で体験した
ほどよい緊張がほどけて
血が多めに逆流していた。

だからよけいに
似合わないことをしてみたくなったのだ。

と、そう思っていたのは
ぼくだけかもしれないが。

飲みつけない酒だと悪酔いするので
ぼくはビールだけ飲んだ。

ローリング・ストーンズの
「ア・ビガー・バン」がかかっていた。

よく聴いたとはとても言えないアルバムなのに
すぐにそれだとわかるのは何故だろう？

あれ？　でもここはブルースバーだよな？
そう思った矢先に
BGMは煤けたブルースに替わった。

「松永くんは結局、音楽で言うと何系なの？」と
Fさんからはずした眼鏡を拭きながら問われて
いつものように返答に困った。

つまみも頼まずに酒を飲み、
結局、30分ほどで店を出た。

まっとうに家に帰るために
クールダウンをしたのだ。

今夜、
阿佐ヶ谷のバーでは何も起こらなかった。