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なにかあり/とくになし

神か悪魔の声がする

いつもここを通っているひとたちには
何てことないゆっくりとした変化なのだろうけど、
久々に足を踏み入れた中央線武蔵境の駅は
ぼくには激変と映った。


以前は駅舎に対して
おちんちんのようにちょこんとくっついていた印象の
西武多摩川線ホームも、
今ではエスカレーターをのぼった先に
立派な姿でお出迎えしてくれる。


まいったな。


これから多摩川競艇場に行こうってひとで
こんなに手厚く立派に見送られて
気分がいいってのは
あんまりいないんじゃないかな。


かくれるように
逃げ出すように
うしろなんか振り返らずに
競艇場には向かいたい。
だからこそ背中に生える羽根もある。


競艇場には
あちこちに水木しげる画伯による巨大な怪獣、
多摩川妖怪タマガワオーの姿があった。


大小のポスター、弾幕、のぼり、
あっちにもこっちにもタマガワオー。
しかし、契約の関係なのか
残念ながら一切グッズ販売は行われていなかった。


そりゃそうだろ、
競艇をしにきたんだから。
ポスターをもらいにきたんじゃない。
舟券を買ってからものを言え。


今日もまた
神か悪魔の声がした。


8レースやって
3勝5敗。


前半は負けがこんだが、後半に連勝。
第11レースで中穴を当て、
金銭的にはなんとかタイブレークに持ち込んだ。


総理大臣杯」というSGビッグレースなのに
心なしか観客は少ないと感じた。


開催2日目で様子を見ているのか、
それとも今日が平日で
週末の三連休をみな当て込んでいるのか、
単純に世の中が不景気だからなのか。


客席からほとばしる
情念に満ちた「ウォー」という悲鳴歓声の巨大さこそが
妖怪タマガワオーの正体のはずなのに
ちょっと物足りない。


最終12レースは意外な展開。
大ハズレを確かめると
ゴールを待たずに駅へと向かった。


ぞろぞろと
ぼくのうしろにも
茶色や灰色のおとなたちが群れをなす。
敗者の特権は
本数の少ない西武多摩川線上り列車に
いち早く乗れることぐらいだ。


そして敗者たちは
終点の武蔵境駅に着くと
今度は一番最後に電車を降りる。


席から立ち上がる気力がないほど
誰もが負けを悔しがっている。


多摩川競艇場にまつわる
ぼくの好きなシーンのひとつで、
これは変わっていなかった。