mrbq

なにかあり/とくになし

フロム・ア・モーテル6

ヨ・ラ・テンゴに
「フロム・ア・モーテル6」という曲がある。


昔はそのタイトルを
「語呂がいいな」程度にしか考えずにいたのだが、
アメリカに来るようになると、
いやでもそこに込められた意図を知ることになる。


フリーウェイの出口に林立するモーテル群。


日本語で言うと性的な意味が強いが、
本来の意味は、車で素泊まりをするためのモーター・ホテル。
ポーターやルーム・サービスとは無縁の
高速道路型ビジネス・ホテルといったニュアンスが強い。


モーテル6(シックス)は
その中でも最安値に近い価格を看板に掲げている
チェーン・モーテルだ。


アメリカで名の売れてきたインディー・バンドは
全米ツアーに出かけるとき
モーテル6を定宿にすることから出発し、
やがてはデイズ・インやベスト・ウェスタン、
最終的にはフォー・シーズンス級のホテルに泊まれるようになることを
目標にするのだという話を
ミュージシャンから聞いたことがある。


デイズ・インも
ベスト・ウェスタンも
大都市部でなければ
一泊50〜60ドルそこそこで
決してハイクラスではない。


安いモーテルと
そうではないモーテルの違いは
如実だ。


だいたいの場合、
安モーテルは
平屋か二階建てで
各部屋のドアが駐車場に直接面している。


まるでモーテルが
歯をむき出しにてニッと笑ってるようだと
いつもぼくは思う。


アメニティは貧弱で、
セキュリティはゆるく、
宿泊しているひとびとの顔に生気が無く、
そして壁が、うすい。


以前、ある田舎町のモーテル(名は秘す)に泊まったとき、
夜中に隣室で男女の激しいあへあへが勃発してしまい
思わず目が覚めてしまったことがある。


ほほお、これがうわさにきいた
外国人の何とやらですかと
しばし感心しきり。


しかし、
困った事態が発生した。


猛烈にくしゃみがしたくなってしまったのだ。


身近なひとはよくご存知だが、
ぼくのくしゃみの音のデカさは半端ない。


隣の音がこれだけ聞こえるということは、
ここでもしぼくがくしゃみを一発かましたら
当然、その音は隣室にも響きわたることだろう。


それは気まずい。


結局、
しばらくの間、
あへあへ声を聞きながら
毛布を口と鼻にあててベッドの上をのたうちまわり
何とかくしゃみの爆発をこらえきることに成功した。


それはそれで
なかなかの生き地獄だった。


気がつけば
外はもう白々としている。


隣室のドアががちゃりと開き、
誰かが外に出ていった。


おそらく男の方が
一戦終了のすがすさしさを満喫するために
外にタバコでも吸いに行ったのだろう。


不意に気が抜けたぼくの鼻を
刺激が襲った。
来る、来るぞ……、
ふぇ、ふぇ、ふぇ……、



ぶえくしゃおわおあおーいっ!



ベッドに残ってまったりとしていた彼女が
ぼくのくしゃみでどれほどびっくりしたかなんて
知ったこっちゃない。


ヨ・ラ・テンゴの
「フロム・ア・モーテル6」で
思い出すのはそんなこと。


モーテル6の名誉のために言っておくと
このお話の舞台はそこではないし、
最近は施設改善が進み、
観光客でも比較的泊まりやすくなっているんだとか。