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なにかあり/とくになし

音楽の芽吹き

金曜日、日付が変わって今は土曜日、
真夜中の新宿OTOは
ごったがえしていた。


特別な追悼の夜だと
みんなが知っていたからだろう。


でなきゃ
おまえも来てないだろう。
いつもいないくせに。
そう糾弾されるべきは、ぼくの方ですね。


バーカウンターの隅っこに
何となく積んであったフリーペーパーの存在を
知り合いの女の子が教えてくれた。


雑誌名は「Cheer Up!」。


雑誌ロゴも描いている常盤響さんの文章の隣に
塚田英樹さんの文章が載っていた。


塚田さんは
「塚田さん」ではなく
「エイジさん」と呼ばれ、
みんなに愛されていた。


エイジさんとぼくの縁は多くない。


それでも、
エイジさんに関する記憶は
不思議なほど鮮明だ。


何よりも
ぼくがこのひとを「エイジさん」と認識する前、
つまりろくに自己紹介もしていないときに、
エイジさんは
ぼくに「松永さん」と声をかけてきた。


それができるのは
根っから人間が好きなひとだということだろう。


去年、長谷川きよしさんの公開ライヴ・レコーディングが
恵比寿で行われたときも
地下の収録場所に向かおうとしたら
2階の方から「松永さーん」と声がした。


踊り場だったか
スロープだったか
そんな場所にエイジさんはひとりで腰掛けていた。


エイジさんが「Cheer Up!」に寄せていた文章は
「音楽の芽吹き」というタイトルだった。


いい加減酔っぱらっていて
大きな音で音楽は流れていて
誰もが思い思いの会話に熱中していて
エイジさんへの感情があちこちでやぶけたように漏れ出しているこの狭い夜中の店で、
朴訥で不器用なフォークシンガーの歌のように
小さな字の短い文章は
ずんと目の奥に響いた。


シンプルだけど
無性に胸を打つ
いい文章なのです。


表4(裏表紙)を見ると
塚田英樹さんの名前は“アドバイザー”としてもクレジットされていた。


もう一度、表に返すと
「Cheer Up」のロゴの右下に
控えめに「Vol.1」の文字がある。


この雑誌が続くんだという意気込みがうれしいのと同時に
是非とも続いてほしい、とも願った。