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なにかあり/とくになし

ビワとセキの日々

40年と7ヶ月ほど生きてきて
今日生まれて初めて食べたものがある。


それは、
ビワ。


ツマの実家からよく送っていただくのだが
どういうわけか食べられない。
食べようという気持ちがわかない。


ツマが食べる分を残して
あとはおすそわけをしておしまいであった。


食べたこともないのに
食べたくないと思う。
これぞいわゆる食わず嫌いというやつだ。


ビワの場合、
理由のひとつは、
過去に食べて苦手だと感じているものに
何となくかたちが似ているという面がある。


ずばり、それは柿なのだが……。


もうひとつ言えば、
平家物語を弾き語ったがために
物の怪に耳を引きちぎられた「耳なし芳一」が弾いていたのは
琵琶(びわ)だったよなあ、と
意味もなく連想してしまうから。


芳一でもないくせに。


しかし、ツマというのは懲りないもので
今朝の食卓に
ビワがデーンと盛ってある。


一個でいいからだまされて食べてみんさい。


ちなみに同じパターンで
昨秋は柿を食べた。
柿は今でも苦手だ(小声)。


こういうときは
小学校の給食で
息を止めてキュウリを食べていたことを思い出すようにしている。


息を止めている間に起こったことは
何も感じない、という
バカな迷信をぼくは今でもどこかで信じているのだ。


ええい、ままよ。
ツマの真似をして皮を剥き、
息を止めてからビワをゾリッと噛む。
ゾリ。
ゾリ。


おや?
意外とこれは、なんだろう?


ゾリゾリ。


ほろ甘い!


気がついたら
食卓に盛られたビワはすべてなくなっていた。
見事にたいらげてしまったのだ。


今日がわたしのビワ記念日。
この話おわり。


次は夕方の話。


今日も軽食がてらルノアール
昨日送っていただいた
高橋洋二「オールバックの放送作家ーーその生活と意見」(国書刊行会)を読む。


前半をなす「小説新潮」連載のコラム「昼下りの洋二」に
“「リズム&ペンシル」の松永さん、住田さん、木田さん”という活字が登場するのを発見した。
あれはもう6年近く前のことになりますか。
お世話になりました。
ありがとうございます。


今日座っていたのは
禁煙スペース。


同じビルの一階にあるPRONTOとは違って
二階にあるルノアール
喫煙スペースの方が未だに広い。


非喫煙者だが嫌煙者ではないぼくは
窓の大きな喫煙スペースの方を好むのだが
あいにく今日は満席で
やむなく狭い禁煙スペースに腰掛けていた。


本に熱中していたら
誰かがコホンと咳をした。


間を置かずに
違うお客さんが、コホン。


すると、どうしたことだろう。
ぼくもつづけて咳をしてしまった。


コホン、コホン、コホン。
三連拍で咳がビートを刻んだ!
こりゃいいぞ。


また誰かがコホッと咳をしたので
調子に乗って、すぐにゲホンと続けてみた。


後続なし。
二拍でおしまい。
いかんな。


今度はこっちから仕掛けてみようと思い
一発、ゲホッと咳をかましてみた。


続くビートはなかった。
代わりに誰もがぼくをじろっと見る。
やばい、まだまだそういう時節柄か。


本と財布と伝票をつかむと
逃げるようにルノアールを失礼したのだった。


咳でリズムは刻めなかったという話。
おわり。