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なにかあり/とくになし

梅雨どきのマリアンヌ

アナログ・レコードにとって
何がわるいって、
日本の梅雨どきほどわるい環境はない。


長雨と多湿により
カビが盤にしのび寄る。
ひどいときにはジャケにも。


カビはすぐに生えてくるものではなく
じわじわと浸食をするさまは
言わばスロー・ドラッグだ。


湿気の力を瞬時に思い知らされるのは
たとえば
輸入盤のアナログの封を開けてみたとき。


ヴィニールで密封されていたときは
パン!と張っていたジャケットの紙が
ヴィニールカヴァーを外して
日本の湿気を吸わせた瞬間に
へにゃへにゃとだらしなく、よれる。
不自然にふくらんだり、
ぶさいくに波打ったり。


LPレコードには
ジャケットに対してもお金を支払っていると考える人間にとって
その湿害は、ちょっとどころではなく
ゆゆしき問題だと言える。


マリアンヌ・フェイスフルの新作
「イージー・カム・イージー・ゴー」は
CDサイズでデザインを見た瞬間から
アナログで買わなくちゃいけないジャケだ、これは、と
心に決めていた。


アナログは2枚組で
見開きのダブルジャケット。


お美しい。


痛ましさとか
暗い過去とか
辛い宿命とか
そういうものはいい加減もういいでしょう、
歌いたい歌をわたしは歌うの、
という“おんな力”に満ちている。


いったい見開きの内側はどうなっているのだろう?


秘密の花園を妄想する男子中学生のように
ぼくはもだえる。
ヴィニールを破かないように
ジャケの内側を膨らませて
目を光らせて覗きこんでみたり。


覗こうか、
やめとこか、
どうしよか、
そのままか……。


もう一度針を落として
ジャーヴィス・コッカーとデュエットした「サムウェア」を聴く。


ええいもう、
辛抱たまらん、
きついタイツ(ヴィニールカヴァーのこと)をはぎ取って
両のジャケをふともものようにガバリと開いた。


ハッ………………。


ふとももの内側には
大きく両手を広げておどけながら
楽しそうに歌うマリアンヌがいた。


おとなになんなさい、
おとなに。


そう諭して(ぼくの頭の中で)、
彼女は湿気を思い切り吸って
ふにゃふにゃっと、にわかによれていった。


よれることすら
彼女にとっては色気になっていた。
ぼくはもう少しで
鼻血が出そうになっていた。


ぼくがマリアンヌに欲情しているときに
キングジョー+須田信太郎漫画の新作
「カイコの女」完成とのおしらせ到着!


こちらからどうぞ。