mrbq

なにかあり/とくになし

トモネン

大庭賢哉(おおばけんや)という漫画家の名前を
どこで気づいたのか思い出せない。


Amazonで検索すると
彼の名前でヒットする著作物は全26件。
しかし、そのうち25冊は
イラストレーターとして表紙や挿絵を担当したものだ。


というわけで
この才能ある作家の正式な作品集は
「トモネン」(宙出版)ただ一冊しか出ていない。


最初にぱらぱらと数ページをめくったときは
絵柄がジ●リ的というか
ストーリーが「魔●の宅●便」の影響受けすぎじゃないのと
ちょっと面食らってしまったが
読み進めてみればわかった。
それは無用な心配だった。


ジブ●はこんなに苦くない。


ジャンルとしては
“メルヘンファンタジー”だと帯にも記してあるけれど、
推薦文を書いている小田扉さんも
決してそう額面通りには受け取っていないと思う。


隠しごとをさらりと言い当てられた悔しさのような
淡いけれど
消せないシミを心に残す話の集まりなのだ、これは。


GO GIRL」という連作短篇の
「#2」がとりわけ秀逸だと思う。


2004年に第一刷が発行されたこの本は
約2年半がかりで第二刷までゆっくりと到達した。
スローペースでも
売れ続けているという事実が
うれしいじゃないか。


もし大庭賢哉がミュージシャンだとして
「トモネン」が
彼がひっそりと発売したファースト・アルバムなのだとしたら、
ここに収録された数々の短篇は、
ぼくにとって
カセットテープやミックスCD-Rにこっそりしのばせて
「これ誰ですか?」と
誰かを驚かせる曲みたいな
ちょっとかわいくて
ちょっと毒があって
とても気になる存在だと思う。


そういう本を
ひさびさに見つけた。