mrbq

なにかあり/とくになし

お見舞いの日

前の晩、
打ち合わせの名目で飲み過ぎたのと、
時差ぼけ疲労の相乗効果で
見事に夕暮れまで寝てしまった。


そんなはずじゃなかったのにと
後悔をしてみせながら、
じゃあ起きてたはずの時間で
何が出来たのさと自問してみれば
まあそれほどのことでもないかと思ったりもする。


髪は切りに行きたかったな。


そう思いながら
ざぶんと風呂桶に浸かる。


夕まで寝たとは言え、
これからツマと出かける用事があるので
身支度をしないといけません。


友人が
急な病気で病院に運び込まれたのだ。
倒れたのは先週の金曜日だったそうなのだが、
そのこと自体をつい昨日まで知らなんだ。


しばらく集中治療室に入りっぱなしだったのが
ようやく一般病棟に移動となり、
面会も可能になった。
そこで馳せ参じたわけ。


お見舞いの品を携えてエレベーターを上がり、
教えられた病室へ。
すると、ない。名札がない!
すわ、まさか、容態の急な何とやらですか?
ドキドキと動転する心を隠して、
通りがかりの看護士さんに質問した。


ああ、●●さんなら■■号室に移りましたよ。(あっさり)


ほっとして
再び教えられた新たな病室へ。
左の奥のベッドを覆うカーテンをめくると、
ない。本人がいない!
すわ、まさか、容態の……(以下略)、
すると、
同室の患者さんが、この階の広場にいるんじゃないかと教えてくれた。


その広場に出向いてみたが、
やはり姿はない。
しかたがないので
しばしそこで淡々と待つことにした。


彼の健康については
以前から心配だという話はしていたものの、
劇的なかたちで「どうだ!」と突きつけられると
狼狽を禁じ得ないものがある。


DJイベントに行った徹夜明けに
カプセルホテルや漫画喫茶で時間をつぶして
さらに朝一番でレコード屋に行くようなやつだったから、
もしホテルとかでひとりでいるときに倒れたら
取り返しのつかないことになっていても仕方がなかった。
仕事中に誰かの前で倒れたというのは
運が良かったと言えるのかもしれない。


だが、
朝まで音楽漬けだった徹夜明けに
カプセルホテルや漫画喫茶で時間をつぶして
さらに朝一番でレコード屋に行くような彼だからこそ、
15年ほど前からぼくはよく知っているのだ。
何よりも生きていてくれてよかったと心から思う。


神妙な気持ちで待っていたら
向こうからひょこひょこと歩いて彼はやってきた。


「君は歩けるんだから
 奥の病室(エレベーターから遠い)で大丈夫でしょ? って
 言われちゃったんですよ」


なははははとほろ苦く彼は笑った。
その顔を見てぼくもちょっと安堵した。
この際だから、
すこしやせて地上に戻ってきたらいいですよ。


帰りは高田馬場に途中下車して
秘密のとんかつ。


家に帰るまでに
結構汗をかいてしまったので
短いスパンなのに、もう一度風呂にざぶん。


二度目も同じようにただ浸かるだけじゃ何なので
伸び放題になっていたあごひげを
剃ることにした。


それからようやく
前園直樹グループ「火をつける。前園直樹グループ第一集」を聴いた。