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なにかあり/とくになし

「明治・大正スクラッチノイズ」

よく覗いている知人のブログで
ちらりと紹介されていた本が
あまりにおもしろそうなので
速攻で買ってしまった。


柳澤慎一「明治・大正スクラッチノイズ」(ウェッジ文庫)が、それ。


俳優であり
ジャズ・シンガーでもある
柳沢真一氏が
柳澤慎一の筆名(ご本名かも)で著された
1868〜1925年(明治元年〜大正15年)までの
日本と欧米のポピュラー音楽史覚え書き。


いや、ポピュラー音楽をテーマにした
無手勝流講談と言うかね。


乱調脱線ありの
文字ジャム・セッション風の文体なれど、
その博学が支えるビートはとてもステディ。


タイトルにある「スクラッチノイズ」とは
SPレコードにつきもののパチパチノイズのことであり、
筆者の文体からパチパチとはみ出る
火花のように鮮やかでおいしい小ネタ群のことでもある。


まだ読み始めてほんのさわりだが、
これがおもしろくないはずはないと確信している。


何よりも
本書は2000年に単行本で一度世に出ているのだが、
本年6月の文庫版発売にあたり加筆訂正がなされており、
その加筆分には“漢検”問題や
5月に「文学界」新人賞を受賞したばかりの
イラン人作家シリン・ネザマフィのことまで触れてある。


そういうひとは
きっとおそろしくアクティヴな脳をしているに違いない。
なにしろ、
こういう時代とは無縁に思える本に
そういうネタを書かずにはいられないわけだから。


そのくせ
永六輔氏のまえがきによれば
度を超した恥ずかしがりやで
長年の付き合いにもかかわらず
永さんと一度も食事をしたこともないというではないか。


その相反する個性の同居を、
永さんだけでなく
ぼくも愛する。


御歳76歳の怪人(快人)の
語り口にしばし酔うことにする。