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なにかあり/とくになし

「レスラー」

ようやく映画「レスラー」を見に行った。


渋谷、日比谷と候補はあったが、
近場の新宿にした。
南口の有名デパート12Fにある映画館。


有名デパートの12Fという立地は
良さげに見えて
実は都会の見えない過疎地であったのか、
このシアター、来月で閉めてしまうのだという。


確かに
外資系CDショップや
レストランを中心にしたフロア構成からは
なんとなく隅に追いやられたとも見える。


しかし、
中に入っておどろいた。
客席は3フロアーをぶちぬいた傾斜になっていて
スクリーンも大きい。
こんなに立体的で
しかも見やすい映画館があったのか。
もったいないことをした。


「レスラー」は見ておいてよかった。


主演のミッキー・ロークがどれほど注意深く役作りをし、
監督のダーレン・アロノフスキーがどれほどディテールにこだわって
ローカルなプロレス会場の風景や、ファンの心理、
さびれたニュージャージーの街と暮らし、
ともだちも家族もいない
ただプロレスでしか輝けないかつてのスターの日常を描き出したか、
この映画はそのディテールに尽きる。


ストーリーはあくまで一本の太い線であり
たいした小細工も
どんでん返しもない。
そんなもの要求するな。


だからこそ
細かい描写の徹底が際立つ。


プロレスとレスラーの裏側を扱った映画というより、
誰かに愛されたいという願望の物語であり、
その絶望的な希望はおとぎ話には決してならない代わりに
確実にひとの胸を打つ。


そして、
一度でも輝くスポットライトを浴びてしまった人間は
そこに戻りたくなって、
かなしいほどあがく。
たとえ、二度と戻れないとしても。


百万個の安心があったとしても
ただ一回限りの大歓声にはかなわない。
ぼくは舞台に立つ側の人間ではないけれど、
そういうひとたちをそばで見る機会のある者として
そのことはよくわかる気がするのだ。


ベネチア映画祭などでの高い評価から
アカデミー賞を「スラムドッグ$ミリオネア」と争うと
下馬評では言われていたが、
結果は「スラムドッグ」の圧勝。
賞レースとしては「レスラー」は惨敗だった。


その負けっぷりも、
この映画には似つかわしい。
ぼくは「スラムドッグ」よりも
断然「レスラー」を支持する。


もう一度見られるかはわからないが、
しばらくミッキー・ロークの演じたさびしい栄光が
忘れられないだろう。