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なにかあり/とくになし

苗場、降ったりやんだり降ったりやんだり降ったりやんだり

苗場は結構な雨だった。


ぱらぱらと、ざあざあの間で
強弱を短時間で変えながら終日降り続けた雨の表情が
変化した時間帯が3回あった。


天気の変化は
フジロックにいた観客全員に公平だが
幸運にもその3回とも
ぼくは良い場所に居合わせた。


最初はサケロック
本編一曲目「慰安旅行」開始と同時に薄陽が差し込んで
フィールド・オブ・ヘヴンがぱあっと明るくなった。
彼らが“運”を持っていると信じられる瞬間だった。


5月に野音で見て以来で
基本的にセットリストは「ホニャララ」ツアーの延長戦で
かなり普段着な演奏だったが
変化の兆しもある。


「餞(はなむけ)」のカズーによるブリッジで
後半、田中馨伊藤大地は地声でコーラスをする(すでに5月も、そう変化していた)。


「ホニャララ」ブックレット内、
細野晴臣×星野源対談での
「次はコーラスをやってみたい」との星野発言に
呼応している布石かどうかは未確認。


旧「ラディカルホリデー」→現「電車」もいい。
まだ未レコーディングの曲だが、
去年の後半からよく演奏されている。
もともと「ラディカルホリデー」になる前が
このローテンポの「電車」だったそうだから、
ふりだしに戻った、
いや、
雨降って地固まる、か。


聴くたびにずんずん重い前進力が増している「電車」は
今、サケロックのライヴで
ぼくにとっては聴けるとうれしい
新鮮さを感じさせてくれる一曲だ。


雨が止んだので
とんぼが気持ち良さそうに飛んでいた。


二度目の変化は
再び降り出した雨の中
ホワイト・ステージに移動してchara


この日のライヴが彼女にとって
劇的な発表をした直後(直前?)だったとのちに知ることになるのだが、
ここにいた泥んこの観客には知る由もない。


一曲目「やさしい気持ち」が始まった瞬間から
西日がカアーッと差し込み、劇的な演出になった。
しかし、このときは雨そのものは止まず、
客席を左右から太陽と雨が挟み込む。


空ではなく山肌に薄く虹が出ていたのだが、
あれこそカメラには映らず、
肉眼にしか見えない美しさというものだろう。


三度目は
ぬかるみの大渋滞を歩き抜け
ようやくたどり着いたグリーン・ステージで。


夕方のパティ・スミス
相棒のレニー・ケイともども60代を超えた。


若手バンドの大音量に耳慣れた観客には
小さすぎるくらいのバンド・サウンド
歩き疲れてどっかとグリーン後方の緑地に座り込み、
ぼくはスクリーンをぼんやりと眺めた。


しかし
気のせいか、
その音がどんどん大きく聴こえてきた。
引き込まれているのだ。
彼女の目に。
演奏に。


終盤の「ランド〜グロリア」で
ついに立ってしまった。


そこから「ロックンロール・ニガー」へと続く数十分間と、
そして弾いているギターの弦を自分の力ですべて
引きちぎってしまうエンディングは、
あなたに何が出来るかは
あなたが何者でどこに住んでいて
何を信じ、何を持っているのかなんてこととは
まったく関係のないことだと
言葉を超えて語りかけているようだった。


空も息をのんだのか、
彼女のステージの間、
雨は一切降るのをやめた。


信じられないけれど
足の痛みや疲れも
この瞬間だけはすべて消し飛んでいた。