mrbq

なにかあり/とくになし

「ベストセラーの戦後史」

こないだ新宿駅のホームで
前に並んでいたサラリーマンが
ハードカバーの本を読んでいて、
ふと目に飛び込んできた文字が
「どくとるマンボウ」と読めた。


へえ!
今どき北杜夫「どくとるマンボウ航海記」を
ハードカバーで読むなんてひとに出くわすことがあるんだ!


しかし、
おどろくのはちょいと早かった。
そのまま電車に乗り込んで
ちゃっかり座席に座ったサラリーマンの前に
何気なくつり革で立つ。


読んでいたのは北杜夫ではなかった。
井上ひさし「ベストセラーの戦後史2」だった。


へえ!(その2)
井上ひさしがそのテーマで本を出していて
しかも「2」ってことは「1」があるんだよね。
面白そうじゃん。


調べてみたら
井上ひさし「ベストセラーの戦後史」(文藝春秋)は
雑誌「文藝春秋」に1989年から1995年にかけて
断続的に連載された文章をまとめたもの。


昭和20年から昭和52年まで
毎年一冊ずつその年を代表するベストセラーを挙げ、
世相とともに読み解いてゆくという内容で、
このひとらしい仕事だと思う。


「2」の帯には
ごていねいに「第3集の刊行は未定です」と書き記してある。
続ける気があったのかな。
井上ひさしの読み解く「ハリー・ポッター」にも興味があるけど、
もはやそんな時代は“戦後”でもないか。


単行本は95年に定価1300円(内税)で出ていて、
とうに絶版になっていた。
文庫化もされていなそう。


しかし、今、
その2冊ともあっさりぼくの手元にある。
前に座っていたサラリーマンに
「すいません、その本読んだらぼくにください」と
言ったわけではない。


またしても無粋な手を使ってしまいました。
“海女損”です〜!(この当て字のコピーライトは友人のノコギリ奏者に属する)
ああ、こんな時代はやっぱり“戦後”じゃない。