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なにかあり/とくになし

うんこCD

お店にどこかの国からDJ(あるいはDJ志望者)が
やってくる。


レコード屋だから
そういうことは、ままある。


今日の訪問者は
カリフォルニアから。
無精ひげのせいで年齢不詳だけど
意外と若そうな白人青年。


好きなのはヒップホップ、
それから60年代や70年代の
アブストラクトなジャズ、
グッドなブレイクのあるオールド・ミュージック、だって。
この手のDJの趣味としては、普通かなと思う。


LA?と訊くと
「カリフォルニアのど真ん中で
 LAからもサンフランシスコからも遠くてね」との答え。


良いレコード屋は近所にある?との問いには、
「あるわけないじゃん!」と、ばっさり。


「お前の店はいいね」とお褒めをいただいた。
ただし
「でもおれは安いの専門だけど」と
付け加えるのも忘れない。


帰り際になって
彼はCD-Rを3枚ほど取り出して
バイトのフジセに
何だかごにょごにょと
話を持ちかけていた。


聞くと、
「一枚500円でおれのミックスを買わないか」と言うのだ。


なんだ、最初からそれが目的だったのか。
ちょっとあきれたが
これも縁だと思って
「これが一番オブスキュア(わけわかんないやつ)だ」と
彼が推薦する一枚を買った。


ラベル面には
うんこのイラストが描いてあった。


家に帰って
その“うんこCD”を再生してみた。


一曲目はスキップ・ジェイムスのブルース
「デヴィル・ガット・マイ・ウーマン」だった。
映画「ゴーストワールド」で使われたやつだ。


へえ、これで始めておいて
どういじくっていくの?


しかし、
スキップ・ジェイムスはどういじくられることもなく完奏。
普通に曲間があって
2曲目が流れ出した。
アイリッシュっぽいフォークソングだった。


おい!
ただおもしろそうな曲を取ってつけたように入れただけだろ、これ!
DJらしい“つなぎ”とか、リミックスの技とか、
そういうのないわけ?


その後もパンクあり、ヒップホップあり、沖縄民謡ありと、
ただ、だらだらとCDは続いた。


聴き終えて
盤面をあらためて見てみると
そこには彼の書いたポエムがあった。
それを記す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


犬が床にうんこをする
そのうんこからは羽根が生え
天国へ12段の階段をのぼるのだ……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彼のとぼけたような顔が
プレーヤーの上に
ぼんやりと浮かび上がったので
エアでゲンコをくらわしたら
しゅしゅうっとその幻は一目散に消え果てた。