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なにかあり/とくになし

隣の青すぎた芝生

隣の芝生は青く見える。
いや、ちょっとこれは青すぎるだろう。


と言っても
我が家の隣ではなくて
家からちょっと歩いたところにある
早稲田通り沿いの一軒家の隣。


全然自分ちの隣じゃないじゃん。
でもまあ、誰の家だろうが
隣は隣だ。
家の横にある雑草地という意味での隣だ。


名付けて“隣の青すぎる芝生”。


本来なら“空き地”と呼ばれるべきその狭いスペースは
かつては家一軒が建っていたことを想像させるものだが
現状は芝生、いや、緑地、いや、プチ・ジャングル。
ここはどこぞの熱帯かというほど
雑草が青々と元気よく茂りまくっている。


中でも目立つのは
蓮の葉のような大きな植物で
結構な高さまで伸びている。
おとなの背丈ぐらいはあろうか。
ウルトラQ」にあんな怪獣植物があったなあと思い調べたら
「マンモスフラワー」というエピソードに出てきたものにそっくりで
しかもさらに調べると「巨大植物ジュラン」というのが
正式名称だったりした。


無秩序で青すぎるこの隣の芝生は
“雑草魂”とか“オーガニック”みたいな
適当に健全な言葉で封じ込められてしまわない
不穏なパワーを無言で放っている。


アメリカのある州では
家の前の庭の芝生が6フィート(1.8メートル)以上伸びると
州の法律で罰せられるのだという話を聞いたことがある。


不穏の素を取り除こうっていうんだな。
いやな話だが
その法律はきっと正しい。


だって、“隣の青すぎる芝生”を通り過ぎるとき
ぼくの胸はざわついてしまうから。


ところが
今週になって
うっかり通り過ぎようとして気がついた。


草が消えた!
どろんと!


更地になってしまったその土地は
叱られた子どものように
丸坊主でしょげかえっている。


そりゃそうだ。
これからこの上に
重たい家が建って、
いやがおうでも、しいたげられるんだから。


わけもなく
ぼくは「あーあ」という気分になったのだった。