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なにかあり/とくになし

チクチクの記憶

魚の小骨がのどに刺さったような。


この形容詞は
心がチクチクと痛むときや
胸のつかえがなかなかおりないときに使う。


ところが
最近実生活では
あまり魚の小骨がのどに刺さらなくなった。


小骨がいっぱいあるような魚が
食卓に上っていないということもあるのかもしれないけれど
実感が薄れつつある。


何かこう
言い換えをするのに適当な形容はないかと
意識してみる。


メザシの頭が思いのほか硬くて苦かったようなとか、
焼き魚の骨をきれいに外そうとしたら身がほとんどくっついてきたようなとか、
焼いた鮭の皮を最後に食べようと思って取っておくようなとか……、
どうもこうチクチクの度合いが
今ひとつ足りない。


小骨には
下手に飲み込んでしまうと
血管の中に入ってしまって
全身をめぐり、
最後には心臓に達して壁を突き破り即死……
なんて迷信を信じていた時期もあった。


ではどういうふうに飲み込むとよいのか。
縦に喉を通過させることをこころがければよい。
そんな器用な芸当なんて
出来るはずのないのに。


心も喉もチクチクしたくなくて
子ども時代の自分は命がけで食事どきに戦っていたのだと思うと
どうにも愛おしい。


体内に侵入した小骨たちは
結局、心臓を突き破ることはなかったけれど
今もこうしてときどき
チクチクの記憶でぼくをさいなむ。