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なにかあり/とくになし

ふたりの「チョメチョメ」が死んだ

レス・ポールが亡くなった。
享年94歳。


チェット・アトキンスよりも17歳長生きし、
彼より8年ほど遅れて
あの世のジャムセッションに加わった。


特殊な装置と
多重録音を駆使した彼のプレイは我流だから
ジャムセッション向きじゃないと思うかもしれないが、
ぼくが見た88歳のレス・ポール
十分すぎるほどのセッション巧者だった。


訃報を伝えてくれたのは
北海道に住む先輩だが、
つい最近もレス・ポールのことを思い出していた。


「レコーディング・スタジオの伝説」(P-Vine Books)という本に
ハリウッドのキャピトル・スタジオの設計に
レス・ポールが大きく関わっていたことが書いてあったからだ。


レコードとしては
昔の奥さんのメリー・フォードと組んだ
ギミカルながらもポップな肌合いの作品が多く、
いわゆるロックギターの元祖というイメージは薄いかもしれないが、
存在そのものが作品であったのだという
こういうときに便利な言い方もある。


ただ、
痛快だ!と呼べるほどの編集盤の一枚くらいは
存在していてほしかったと思う。
伝記映画のDVDもいいかもしれないけど、
ひとをうしろから襲う電撃的なショックを持っているのは
やっぱり音だと思うから。


同じ日、
日本では山城新伍の訃報も流れた。
こちらは享年70歳。


粋も下世話も知っていた
そんな世代の才能あるひとを
思い出す言葉が「チョメチョメ」じゃ
ちょっとさびしいけれど
その軽薄な華と
どこか隠しきれない不器用な気骨が
またこのひとらしくもある。


廣済堂文庫から復刻された
文筆家、山城新伍としての名著「おこりんぼさびしんぼ」を
もし読んだことがないのならこの機会に是非。
このひとの恥じらいを含んだ下世話さの貴重さと
このひとの生きた時代のエネルギーを失ったことは
痛恨としか言いようがないとわかるから。


ここ十年くらいテレビへの露出もなかったし、
若いひとには「チョメチョメ」すら「?」かもしれないけど、
久米宏の生んだ「ホニャララ」と同じくらい
短いセンテンスで世の中の本質を言い当てた名フレーズだと思う。


つまり、
毒ならいくらでも吐くけど、
自分の一番大切な本当のことなんか言えない、って意味で。


そう言えば、
レス・ポール
決して箱の中の仕組みを明かさない音響装置、
通称“ブラック・ボックス”を長年持っていた。


このひとも「チョメチョメ」人種であった。
そこには
含羞(がんしゅう)という言葉の尊さがある。


世間と素直に交わらない(交われない)
不思議なゴツゴツ感を伴って生きた
ふたりの「チョメチョメ」が死んだ。