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なにかあり/とくになし

秋がくるぞ、逃げろ!

今日あたりから朝晩がしのぎやすくなりますよと
天気予報が言っていたが、
すでに夕方には
ぐっと涼しいそよ風が吹き始めていた。


秋がくるぞ、
逃げろ!


成虫になってわずか一週間の命を
秋に囲まれて台無しにされちゃかなわんと思ったのかどうか、
ハイファイを訪れたお客さんにくっついて
店内にセミがちん入するという事件発生。


逃げ場を失ったセミ
あちこちを飛び回って
しばし店内はきゃあきゃあとプチパニックに陥った。


そのうち
打ちどころがわるかったのか
セミは気絶して店の隅に墜落。


混乱していたお客さんたちも
すこし落ち着いた。


よく見ると
6人連れほどのご一行の半分は外国の方。
何かお目当てがあるというわけでもなく
物珍しそうに店内を物色して
お帰りになった。


帰り際に
「さっきの虫は何?」と不思議そうに英語で訊ねるので
「シカーダ(cicada)です」と答えた。


バンバンバザールの名曲に
「シカーダ」っつうのがあってね……なんてことは説明してない。


アメリカではセミを見聞きすることは稀で
珍虫の部類に入る。
まあ、蜂みたいに毒針を刺すような危害もないわけで
珍しい経験が出来てよかったよかったという感じであった。


さて、
店内に誰もいなくなったのを見計らって
一時的に気を失っているセミ
何とか外に放り出さないといけない。
店の中でみんみん鳴き始めたりしたら、おおごとだ。


こわごわと接近すると
仰向けに寝転がっておられる。


正直に告白するが
ぼくは虫が大の苦手。
どこがこわいって
横筋がいっぱい走ったこのお腹!


ティッシュを何枚も使って武装
手を伸ばす。


おい、
起きんなよ、
おまえの短い青春、
尊重するつもりなんだからさ。


しかし、
ひとの心セミ知らず(そりゃそうだ)。
ティッシュの先が触れると
びくっと震えてセミは意識を取り戻し、
ぎいぎいびゃんびゃん
再び店内を狂ったように飛び回り、
あわれ40男は子犬のごとくドアの影に逃げ込んだのだった。


そのとき
店の奥から
今まで事態を静観していたスタッフのフジセが登場した……。


さて、
このあとどうなったか。


それはまた
いつかどこかでお会いしたときにでも。