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なにかあり/とくになし

マイ・ハワイ

ロスのレコード屋
いきなり日本語で話しかけられた。


「日本の方ですか?」


そういう質問はよくある。
でも、今回は違った。


「ハイファイの方ですか?」


うお、直球ど真ん中、正体バレバレであった。


こういう場合、
すわ同業者かと
小心なぼくはどうしても身構えてしまう。


しかし
人懐っこそうな笑みを浮かべた眼鏡の青年は
「ぼくはこっちで音楽をやってるんです。
 よくサイトを見させてもらってるんです」
と自己紹介をした。


そうか、そうだったのか。
前はサイトにスタッフの写真も載っていたりしたから
それで見覚えがあったのでしょう。


とは言え、
こういう場合、
いつもぼくは言葉が全部ハ行になったような
しどろもどろの返事になってしまう。
おとならしさが足りなくてごめんなさいと
彼に心の中で謝罪した。


ちょうどぼくの方は買付の会計が終わるところで
彼はこれからレコードを見るところ。
一瞬のすれ違いに終わりそうな出会いを
ぐいっと引き寄せてくれたのは彼の方。


別れ際に一枚のCD-Rをくれた。
彼のバンドの作品だった。
バンド名はマイ・ハワイ
へえ。知らなかった。


でも、知らない音楽を聴くのは
いつでもチャレンジだし、
ましてや偶然が引き寄せるものには
必ず何かある。
そしてぼくは
マイ・ハワイを結構気に入った。


頭脳的な音作りなのに
サウンド自体は乾いている。
サウンド・ライク・カリフォルニア。
まず、そこがすかっとしてる。


後期ビートルズ
ビッグ・スター、
マシュー・スウィート……、
そんな名前が脳裏に浮かぶポップ・ソングと、
21世紀的なセンスで噛み砕いたフォーク・ミュージックや
ガジェット的なノイズが、
仲良く共存と言えるほどには仲良くせず、
ギシギシときしむ音を立てながら一緒にいる。
無理にすべてを消化してしまわない
その未分化な感じも
かえってぼくには心地よい。


ダニエルという女の子の歌う
ジョン・タイター・ワズ・ア・トラヴェリング・マン」という曲が
とても切なくキャッチーで
この曲を入れてCD-Rなど作ったら
まるで高校生みたいな気持ちで
さぞかし誰かにプレゼントしたくなるだろうなと思った。


そう思いながら、
おいおいそれってかなり結構な褒め言葉じゃないかと
ふと我に返って
柄にもなく胸が熱くなったのだった。


明け方に読み終えた
「一瞬の風になれ」全3巻の余韻のせいもあるかもしれないな。