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なにかあり/とくになし

土曜の朝、ひそかに豪快な出会い

徹夜、ではないけれど、
遅寝+時差ぼけがダブルでじわりとからだにこたえる朝の電車で、
ぼくの目の前に座った彼女は
なんてにこやかな笑みを浮かべているんだろう。


命の水を両の手のひらですくうようにして
小さな文庫本を大切そうに読みながら、
クスクス、ニコニコと
わずかにからだが揺れる。


心の内側から
魂そのものをくすぐられているのがわかる。


いったいあなたは
何を読んでらっしゃるの?


指のすきまからズームイン。


え?
そ、それは……、
その表紙はぼくも知ってます。


こ、こ、これじゃないですか!


草食系男子の対極を求めているんですね。
なんとなく友だちになれそうな気がします……と
思ったところであえなく乗り換え。


あなたともう一駅くらい
乗り過ごしたかった……。


ひそかに豪快な出会い、
そしてしずかにざわめくすれ違い、なんつって、
寝ぼけるのもいい加減にしろ、な土曜朝。