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なにかあり/とくになし

幻のタイ弁当屋を見たかい

2009年の夏が終わる。


2009年のちょっとさみしい夏を思い出すときに
書き留めておきたい景色があった。


ハイファイの近所、
明治通りに居並ぶショップの間に
ちょっとした空き地があるのだが、
この夏、
そこにタイ風味の弁当売りが出現した。


オフィス街などで
ワゴンで乗り付けて弁当を販売する移動ランチ店舗を見かけることは
珍しくもなんともない。


ところが
このタイ弁当屋
ひと味違った。


貧相なテーブルとパラソル、
そしてタイ人と思しき娘がぽつねんと座り、
2種類のタイ弁当を売っていた。
バックアップ用の車も見かけないし、
どうやって運んできているのか疑問が浮かぶ。


弁当の写真に名前と値段を添えた簡単な看板があるだけで
道ゆくひとびとに景気よく声をかけるとか
とりたてて目立ったプロモーションもない。


もっと言うと
炎天下のアスファルトの上で
特に保温面などに気を使っている様子もない。


え? これでいいの?
思わず息をのむほど
無防備というか、むき出しの弁当屋であった。


ある風の強い日に
ビル風にあおられてパラソルが飛ぶのを見たことがある。


彼女は店をほっぽり出して駆け出して
車道に飛び出しそうになったパラソルをぐわしとつかむと、
悠然と日なたのテーブルに戻っていった。


見かけの貧相さとは裏腹の肝っ玉の太さに
くらくらした。


あの肝っ玉は
きっと直輸入だぜ。


だとしたら味は本気のバンコク仕立てで
きっとうまいんじゃないかな。
今度買ってみよ。


そう思っていたのに、
10日ほど買付で留守にしたあと、
その場所を通りかかると
弁当屋はこつ然と姿を消していた。


まるで
最初から何もなかったかのように。


スタッフのフジセが一食買ってみたところによると
「なかなかいけますよ」とのことだった。


来年の夏、
あの店にまた会えますようにと
ひそかにぼくは願をかけている。