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なにかあり/とくになし

「さよなら群青」を勝手にめぐる、ふたつの音楽

さそうあきら「さよなら群青」1巻(BUNCH COMICS)、
もちろん買ってしまう。


待ちに待った新作というほど待ってない。
さそうさんはつくづく休まないのだ。


今回は
北の離島に暮らす若い海女(何となくタイムリーな……)と
謎めいた背景を持つ心のうつくしい少年の話。


最初の1ページから
いやおうなく引き込まれてしまう。


朝の電車の中で
BGMは
フェアポート・コンヴェンション「フル・ハウス」。


ぼくの単行本「20世紀グレーテストヒッツ」の表紙を描いていただくにあたって
一度だけお会いしたとき、
さそうさんは
ロックは聴かず、
古楽(中世以前のヨーロッパの音楽)が好きだというようなことを
おっしゃっていた。


古楽から伸びた細い糸が
ケルト音楽〜ブリティッシュ・トラッドを通じて
フェアポート・コンヴェンションにつながったと考えるのは
超こじつけ!


何というか、
この先に悲劇が待っていると予兆させるムードが
さそうさんの漫画と妙に響き合うかもね、と
それくらいの意識で聴いた。


ストーリーはまだ序盤ながら濃密で
一度読んだだけでは飽き足らず
家に帰ってからもう一度ページをめくった。


今度は
買ってきたばかりの
プリファブ・スプラウトの新作
「レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック」を聴きながら。


稀代のメロディメイカーにして
気難しい作詞家にして
救いがたいロマンチスト、
パディ・マクアルーンは52歳になり、
プリファブ・スプラウトはどこから見ても
彼のソロ・プロジェクトになっていた。


新作での彼は
音楽への信頼や神への祈りをおどろくほど率直に歌っていた。
サウンド
簡素な打ち込み機材やむきだしのシンセ音で作られたものだが
メロディやコードは
相変わらず意地悪なほど素晴らしい。


純粋な新作ではなく
もっと早くに出来上がっているはずだった過去の音源を
ようやく仕上げた作品であるという話も聞いた。


だが、前作からの8年間、
このことをずっと考えていたことに変わりはないだろう。


はっきり言って
このアルバム、
今までのファンには違和感があるかもしれない。


だが、
ぼくは
好きだ。


バランスの悪い
しかし神秘的なポップス。


スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「暴動」や
シュギー・オーティスの「インスピレーション・インフォメーション」とも
とても密接なものを感じる。


ひとりとは
孤独を仲間につけて何か得体の知れないものを生み出すための唯一の方法なのか。


CDブックレットの中に
パディ・マクアルーンのポートレートを一枚見つけた。
その現世離れした風貌には
言葉を完全にうしなう。


ブライアン・ウィルソン
いつの間にかリタイアしてしまった修羅の道の
その先を行こうとしているのは
この男かもしれない。


だが、その道行きには
この先に起こることが
とてつもなく悲しいことでも
にぶい救いの光をどうにか探していたいという、
やけに甘っちょろいロマンがあることも確かなのだ。


そこで意識は
「さよなら群青」に戻った。


今だけの勝手な錯覚かもしれないが、
プリファブ・スプラウトの新作は
さそうあきらの漫画にも似ていた。