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なにかあり/とくになし

お間違いないですか?

「タイトルと巻数はお間違いないですか?」


渋谷の某巨大コミック売り場のレジにて
会計の際の決まり文句。


ビルの上が
これまた巨大なレンタルDVDストアであるがゆえ、
そういう念押しが基本フォーマットとなるわけだ。


この日、
漫画友人であるカクバリズムM哉氏の推薦に乗って
ぼくが買ったのは
福地翼タッコク」1巻(サンデーコミックス)。


どうですかね……?
おれ、間違ってますかね?


タイトルや巻数ではなく
これを買ってる自分が間違ってるのでは?
そう問いかけられている気がする夜の渋谷。


内容は
卓球という競技を
日本が世界に誇る最強のスポーツにするために
ティーンエイジャーの男女は交際を申し込む際に
卓球で勝利して告白しなければならない、という法律が決まった
近未来の日本のおはなし……。


どうですかね……?
おれ、間違ってますかね?(再び問う)


間違っていると言えば
こないだ見かけた
近所の中華料理屋でのひとこま。


奥のテーブルで話し込んでいるのは
常連らしきおじさん3人連れと
お店のママさん。


ひとりのおじさんがこう言った。


「ものごとには“TKO”ってのがあってさあ」


おいおい、TPOだろ。
ていうか、TPOも、もう言わないけど。


ママさん(アジアのひと)を除く3人は
かなり酔っぱらっているので
余計な突っ込みも入らず
おじさんの独演は続いた。


「いいか、
 “T”はな、“タイミング”だよ。
 “K”はな、“K”は……
 “きっかけ”だよ! “きっかけ”!」


飲みかけたビールを思わず吹きこぼしそうになってしまった。
明らかに間違ったままで
このおじさんは前に進むつもりだ。
だけど、何だかうまくつながってるじゃないか。


“O”は、“O”はどうするんだ?
“オケージョン”なんて正解はいらないぜ!


「“O”は、“O”は……」


そのとき、
おじさんはまさかの奇跡を見せた。


「おい、起きろ!」


横で寝に入っていた同席のおじさんを
揺り起こしに入ったのだ。


そして話は
何事もなかったかのように
こないだの選挙と商店街のあれこれに移っていった。


はたして
“O”は“おい、起きろ”の“O”だったのか、
それとも単に話をそらしたかっただけなのか、
それとも最初からすべてがどうでもよかったのか……。


しかし、
新しい情報に耳を貸さずに
まっすぐ進むことも必要だと
ジム・オルークさんも言っておられる。


このインタビューを読んで
彼の新作「ザ・ヴィジター」がなんだかとても聴きたくなった。


で、結論を言うと
「タッコク」を買ったぼくは
そんなに間違ってなかったようです。